第2話 リーツァ姉さん
「はぁ、はぁ。」
今日も今日とてムーチーは毎日の日課である村の柵の内側を10周走ってるのだった。
「あれ?もしかしてムー? お〜いっ!」
「あと、1週……待って。」
急に声を掛けられて思わず『ビクッ』としたが、自分でもびっくりするくらい普通に返事を返していた。
呼びかけられたがまだ日課の途中だ。そして9km近く走っていたため、息も切れ切れになりながら必死に答えた。
ムーチーは己の中で緊急では無い限り、足を止めないと決めている。
「分かった、村の入り口で待ってるね!」
ムーチーは声の主の前を走りすぎ、背中越しに何度も頷いていた。もう声を出したくなかったのだ。
ノルマの10週を終えるともっけが待っていた。
「そろそろかと思って、”ウォーター”……”エアー”」
汗まみれのムーチーは一瞬で水を浴びせられ、急速に乾かしてもらった。昨日みたいな不意打ちのない日はこんな感じだ。
「はい、お水。先に家行ってご飯作るね!」
もっけは持っていたコップを渡そうとした……。が、ムーチーは受け取らず首を横に振った。
もっけは『いつもは素直にお水を受け取るのに?』と、不思議そうに右に《こてんっ》っと可愛らしく首を傾げた。
ムーチーは息も切れ切れなまま、村の入り口の方へ歩き出した。
「ちょっ!ムー?……。家に帰らないの?」
ムーチーは振り返りもせず、右肩越しに左手でもっけを手招きした。
もっけは更に訳が分からず、今度は逆の左側へ大きく首を傾げた後、黙って後を追いかけた。
『あれ、すぐ追いついた?ムーいつもよりフラフラじゃん(笑)』
ムーチーは珍しく大きく肩で息をしながらも、立ち止まらず村の入り口を目指して歩いた。
村の入り口に近付くと、やけに騒がしい。
「ムー?歩いてる途中から気づいたけど、入り口付近の集まりって誰か来てるの?」
ムーチーは立ち止まってもっけに向かい、ニヤっと意地悪く笑って見せた。そして入り口に向かって叫んだ。
「リーツァねぇさーん!」
もっけはムーチーから予想外の名前を聞き、驚きのあまり目が点になった。
「ムー!と、もっけぇ~?遅いからみんな来ちゃったよー。」
リーツァは2人に向かって大きく手を振った。
「リーツァ姉さん!」
もっけは現実にもどり、大きく手を振り返した。そして、フラフラのムーチーを置き去りにして走り出した。
ムーチーはたちどまったまま、嬉しそうなもっけを見て何処か嬉しそうだった。
もちろんむーちーも日課をこなしているときに声を掛けられ、嬉しさのあまり最後の1週はいつもよりペース上げていたため、いつもよりフラフラだったのだ。
「きゃーっ!」
もっけが叫びながらリーツァに飛びついた!
ムーチーは心の中で『もっけもリーツァに会えたことを喜んでるんだなぁ、僕も早く行こう。』と思い、疲れた足をゆっくり動かした。
ムーチーがようやく入り口に到着すると、リーツァが目を輝かせて話しかけてきた。
「ムー、久しぶり!」
リーツァは遠慮なくムーチーに抱きついてきた。
もっけが近くで睨んでいるがムーチーにはどうすることもできない。そっと手を軽く上げ、目でもっけに訴えかけたが、そっぽを向かれた。
「リーツ、彼がムーかい?」
誰かの声にリーツァはムーチーからパッと離れて、声の主の方へ向いた。
「そう、例の件よろしく!」
『んっ? 例の件?……、てか誰だ?』
ムーチーは不思議そうにガタイのいい男性を見ると……その腕には小さな子供がいた。1〜2歳くらいだろうか?
ムーチーが子供を見て目を丸くしているとリーツァが待ってましたとばかりに爆笑し出した。
「ムー、紹介するね。夫のライカークと私達の息子、ファルー!可愛いでしょ?」
ムーチーは状況が受け入れられず、固まったままだ。
数分前、先に同じ行動をしていたもっけは「ふっ。」と笑ってムーチーの横に行って肩を叩いた。
「はっ!」と我に帰ったムーチーは2人を見比べて、少し考えた後。
「そっか……。結婚と子供、おめでとう!」
その言葉を後に村の皆は口々に「今日は宴会だ!」と騒いでいた。
◆◇
「リーツァ姉さん、ムーのお家で一緒に朝ご飯食べよう?」
もっけの提案にリーツァは頷き、「ライ、行こう。」
「ムー、先に帰ってママさん起こしておくから皆とゆっくり歩いて来て。」
そう言い残すともっけは「”エアー”」と唱えた。その風魔法を背中にあて、移動スピードを上げて走っていった。
「ほぅ、”エアー”をあんな使い方するのは初めだ!」
ライカークはもっけの魔法の使い方が今まで見たことが無く、あっけにとられた。通常、魔法は宝石に魔力を貯められた物を使用する物だ。しかし魔法使いは冒険で魔法を使い、休みの日には宝石に回復魔法を貯めていることから市場にあまり出回らない。
そのため高値で売られ、高貴な貴族などのお金持ちに買い占められている。もちろん宝石は種類を問わず高値だ。(色や透明度、大きさで更に値段がつくくらいだ。)
そのため魔法を使える冒険者を夢見る15歳以下の子供達は村や町人達のために、安値で石ころに魔力を込めて回っているのだ。
「贅沢な使い方と言うか、他の場所では考えられない行動だな……(汗)」
2人は呆れた様子で目を見合わせた。その反応を見てムーチーは不思議そうにした。
「鍛錬終わりなんで歩くのゆっくりなんですけど、案内します。」
ムーチーは2人に向かい声を掛け、ゆっくりと家へ歩きながら話だした。
「リーツ姉さん久しぶりだね!村を出た日から1回も帰ってこないんだから村の人達は皆、心配してたんだらから。」
リーツァは笑っていた。その笑顔を見てライカークが一言。
「リーツはさばさばしている性格上、手元に置いておかないとすぐ何処かに行くからな!」
ムーチーは2人で笑い合う顔を見て複雑そうな顔をしながら過去の事を思い出していた。
◆◇◆◇
遡る事10年前、5歳のムーチーともっけはリーツァに見てもらっていたのだ。当時のムーチーにはリーツァが大人に見えて初恋だった。
もっけと3人の時間は楽しく、ずっと続くものだと思っていた。そう、リーツァが15歳になった日までは……。
「あたし、冒険者になるから!皆、元気でね?」
誕生日の当日、サラッと村を出て行ったのだった。村人はあっけにとられ、ムーチーは1人泣き崩れながら誓ったのだった。
『絶対10年後、冒険者になって追いかけて……結婚を申し込む!』
当時はそんてことを考えていたのだ……。
◆◇◆◇◆◇
夜になり、村ではリーツァ家族の大歓迎会が始まった。
リーツァが常に宴会の輪の中心だった。宴会も落ち着いてきたころ、ライカークがムーチーの隣に座った。
「やっと落ち着いて話が出来る。朝食の後、ずっといろんな人に捕まっていたからな(笑)。今朝リーツが言っていたことだが、もうすぐ誕生日なんだろ?剣士希望の君に稽古をつけてくれと言われてな!明日以降落ち着くだろうしどうだい?」
ムーチーには願ってもいないことだった。この森駆村には年の近い子供に剣士希望はいなかったのだ。時間のある時に少し離れた隣村、革詫村にいる1個下のベイキッドとしか訓練するしかなかったのだ。
ムーチーは何度も頷きながら目を輝かせた。
「ムー、よかったね!」
もっけが隣で喜んでいた、まるで自分の事の様に……。
――そして夜も遅くなり、宴会はお開きになった――
大人は酔っぱらっていたるところで眠っていた。
ムーチーはもっけを家に送り届け、自宅に向かった。
しかし、家路の途中で強烈な睡魔に襲われた。
「うっ……、なん だ、こ れ?」
視界が《ぐにゃっ》と違和感と共に意識を失い、道端での草むらの上で眠ってしまった。
この後起こる事を知るすべもなく……。




