第22話 被害拡大
ルル机の上に出された、薬草の袋を開けながらムーチーに説明をした。
「薬草を確認しながら、ギルマスからのメッセージを軽く説明するね。」
「ウルキャットの目撃について後で話してくれるかな?」
『薬草を種類別に分けている。手際良いな……。』
「それで、ウルキャットについて明日ギルマスに報告して欲しいって!時間とかは書いてないからクエスト終わりでも大丈夫だよ。」
「次に、聞いてると思うけど2つの村と別で新たな村が被害を受けたんだって。騎士団がそっちの調査に行くから帰ってくるまで通常クエスト受けて欲しいそうだよ?」
「はい、ギルマスから直接聞いています。先程軽く掲示板見ていました。」
「そっか。後はターユンさんの話だね……。」
「宿でルルさんを名指しで呼んでましたね……。さっき軽く聞いたんですけど経歴にびっくりしました!」
引きつった顔であははっ、と笑った。
「ローユンさんは特殊でね、騎士団も急に辞めちゃって、冒険者もギルドカードをただの身分証変わりに使っているだけなんだ。なんであの宿に落ち着いたのか誰も知らないんだ……。」
『そんな経緯があったんだ。僕からは聞かない方がよさそうだな……。』
ムーチーは何となくそう思った。
「で、今朝急に来てうちの宿に泊まってるムー君の薬草を一部渡せ~。って押し寄せて来たんだよ。」
ムーチーは朝の事を思い出しながら話した。
「意気揚々と宿に帰って来ましたね。」
「まぁ、強引な取引だったけどね……。」
◆◇
遡ること、ローユンがギルドに着いた頃。ギルドの前を掃除していた受付嬢に一言。
「ルルのところ連れてって?」
もちろん当然の事で呆気に取られて固まっていた。
「まぁいいや、入るよ。」
扉を開けるなり「ルル~!」
と叫んだ。
ルルは食堂で朝ご飯を食べ終わったばかりで、食堂のおばちゃんに食器を返すところだった。
「朝早くからご使命だねぇ?あら、すっかり目を覚ましたね。」
食堂のおばちゃんが言った通り、眠そうな目はパッチリと空いた。そして顔色が段々と青ざめていく。
「この声はまさか……。」
ルルは走って受付まで行くと、予想していた人物がいた。
「おっ、遅いじゃないか。ギルマスのところ行くよ。」
ローユンは有無を言わさず、ルルを連れてギルマスの部屋へ向かった。
「タッコル!入るよ。」
遠慮なく開けた。
「あぁ、久しぶりに見ましたね。」
「朝早くから、元気そうだな……。」
ギルマスは顔をしかめて答えた。
「彼女を預かってるんだ、その恩を少し返してもらいに来た。」
ルルは聞いたことのないことに耳を疑った。
『彼女を預かっている?誰の事……。』
「うちの宿にムーチー君が泊ってるんだ。ちょっと小耳に挟んだんだが、1枚かませてくれないかい?」
ムーチーに渡したメモと同じものをルルとギルマスに渡した。
「取れた1割、後は端数を貰いたい。」
ギルマスはメモを見て頷いた。
「ルル、ムーチー君とは個人依頼だから個室対応だ。ローユンの要望を呑んでくれ。」
ルルは呆気に取られた。
『え?人質でもいるの?』
「流石~。話分かるね!じゃあよろしく。」
ローユンは2人を置いてそそくさと帰って行った。
「ルル、このことは他言無用だ。……もちろんサブマスにも。」
「えっと、分かりました。」
もちろんルルに拒否権なんかなかったのだ。
とルルが今朝の出来事の回想をしたのだった……。
◆◇◆◇
ルルは説明をしながら、薬草を種類ごとに分け終わっていた。
「薬草を数えながら仕分けするけど、さっき言っていたウルキャットについて教えてくれるかな?」
「ルルさんはウルキャットについて何か聞いていますか?」
『ルルさんはどこまで話を聞いているんだろう?』
ムーチーはルルが何も知らない場合に、正直に内容を伝えることを悩んでいた。
「ウルキャットの目撃情報があったことくらいしか聞いていないよ?もしかして言いにくい感じ?」
『図星だ、僕自身もまだ内容を受け入れ切れていない。』
「ギルマスには支持されているけど、内容次第じゃあ……内容を省いてもいいよ?明日どうせギルマスに話すんだし。」
ルルは優しく接してくれた。
「いえ、ルルさんにも伝えます。まず、ウルキャットは親2匹、子が1匹。の親子3匹です。シンク村でも初日にちらっと見ました。」
「正解だね。ウルキャットはCランクのモンスターになるから戦うと勝ち目無いね……。」
ルルは頷いた。薬草をまとめる手は止めずにしっかりと分けている。
「それで、ここから言いにくいのですが……。帰り道にそのウルキャットを見たギィシャさんが最初に気付いたのです。」
「親2匹がギィシャさんと見つめ合っていたのです。毛並みはオスと子供が黄色、メスはシルバーで瞳は紫色。」
ルルの手が一瞬止まった。
「おそらく、騎士団のライカークさん、冒険者のリーツァ姉さん、その息子のファルーくんです。」
「噓でしょ?」
ルルは驚きの余り作業の手を止めてしまった。
するとルルのギルドカードに、ギルド職員に一斉メッセージが流れて来た。
――――
・新たな村で人がい一斉に消えていると通達があった。
・昼に続いて2村目。
・明日、冒険者に通達。
・冒険者に護衛を依頼。
ギルドマスター タッコル。
――――
ルルに更なる追い打ちが来て頭がパンクしてしまった。
◆◇◆◇◆◇
『ルルさんは困っているけど、話したことで少し気分が楽になった……。』
ムーチーは無常にも少し安堵したのだ。
「ムー君、打ち明けてくれてありがとう。私もまだ整理出来ていないけど……、明日ギルドが開く前にギルドへ来てもらえるかな?」
ルルはギルドカードのメッセージで頭がこんがらがって、薬草の数を数えている場合ではなくなってしまった。
「分かりました。」とだけ言って個室を後にした。
『薬草の数も多いし、ルルさんにも心の準備がいるよね?』
ギルドカードのメッセージを知る術がないムーチーにはウルキャットの情報が全てだと思っていた。
「おかえり!薬草は一杯取れたかい?」
元気一杯なローユンが待っていましたとばかりに声を掛けて来た。
「えっと、はい。一杯取れたので明日の朝一番にギルドへ顔を出すことになりました。」
ローユンにとっては嬉しい情報だが、ムーチーがどことなく落ち込んでいるのを見て今日何かあったことを察した。
「今日は疲れたんじゃないか?後で部屋までご飯持っていくよ。」
お礼の代わりに軽く頭を下げて部屋に向かった。
『助かった。今日は広いところでご飯を食べる気にならない……。』
部屋に着き、ハートに血を用意してあげた。
「ハート、ご飯置いておくよ。」
ベッドに行き、仰向けになった。ただ今日の事を整理したくて、天井を見続けた。
『何か答えが出るわけではない。覚悟はしていたんだ……。リーツァ姉さん。』
頭の中をぐるぐると過去の思い出が廻った。
それでも現実が受け止められず、時間だけがひたすら過ぎて行った。
「ムー君、入るよ?」
ローユンがご飯を持って入ってきた。
しかし、試行の停止したムーチーは気付かないまま天井を見続けていた。
『これは重症だな?』
ローユンはご飯を机の上に置き、ムーチーを無理やり起こした。
「ほら、動いたんだからご飯くらい食べな!」
ムーチーは虚ろな目のまま、言われるがままご飯を食べていた。
『意識ここにあらずって感じだな。明日ギルドについて行こっかな!』
ローユンは見かねて明日は一緒にギルドへついて行くと心に決めた。




