第21話 ヒュースター?
「ギルマス、少年にまで伝えたらまずくないですか?」
サブマスが咄嗟に口を挟んだ。
「この時間に帰って来たんです。皆さんの顔色が悪いので何か良くない事が起きたんでしょう。」
ギルマスはギィシャの顔を伺いながら聞いた。
「薬草採取は順調でしたが、とても悪い知らせです……。」
ギルマスはギィシャの持っている布を見た。
「ムーチー君が初日に見たウルキャットの家族と遭遇しました……。ほぼ間違いなく、リーツとライ、その子供だと思われます。」
ギルマスは頭を抱え、サブマスは後ろの窓を見た。
『これは何かの夢だ……。だって、こんなに夕日が綺麗なんだ。』
サブマスが現実逃避しているとギルマスが顔を上げた。
「ギィシャ、明日からモンスター化した村の調査を頼みたい。」
ギィシャはムーチーの顔を見た。
「ユウラは連絡係として調停隊に加わってもらうしかないですね。」
「ウルキャットの件もあるから明日は普通のクエストをこなして貰う。」
「分かりました……。」
『今回は知らない村だから僕はついていけないよね。』
ムーチーは納得せざるを得なかった。
「それと今朝、ローユンが来てな……。ムーチー君、あそこの宿に止まってるんだって?」
「げっ、今更何しに来たんだ?」
サブマスがローユンの言葉で我に帰った。
ギィシャは眉間に皺が寄っている。
「久しぶりに名前聞いた……。ローユンさんが宿、ね。」
信じられない顔をしていた。
「ユウラさん、ローユンさんってそんなに有名なんですか?」
「名前聞いた事くらいしか……。」
「元騎士団長で、Aランク冒険者。憧れの人だったな……。」
「オーウェド、ローユンさんの事憧れてたんだ……!」
ギィシャは引き笑いをしながら答えた。
◆◇
「彼女は、一言で言えば腕の立つ問題児でしたね……。」
サブマスはまた窓へ向き、遠くを見出した。
「ムーチー君、要件は聞いてるよ。ローユンの頼みは無碍に出来ないからね……。ルルに報告したら調整してくれるよ!」
『ギルマスも一目置いてるんだ!ローユンさんって凄い人だったんだ!』
朝の自信満々で帰ってきた理由がなんとなく分かった。
でも、横ではギィシャが小刻みに震えていた。
「ギィシャさん、大丈夫ですか?」
引きつった笑顔のまま、返事した。
「ローユン先輩の現役を思い出して……。」
ギィシャもどこか遠いところを見出した。
「じゃあ今日は解散!くれぐれも今日のことは内密に!」
「あと、ムーチー君。ローユンから1週間の宿代は貰ってるって言ってたから今日の報酬は幾分か時間貰うよ?」
『リーツァ姉さん達のことがあるもんなぁ……。』
「大丈夫です。被害の村優先して下さい!」
ペコリとギルマスに頭を下げて部屋を出た。
「ムーチー君、ごめんね。新しい村の調査終わったらギルドに報告するから我慢してね!」
ギィシャは謝り騎士団とムーチーは別れた。
「サブマス、調査終わりにモンスター化の名称。さっき決めてくれた"ヒュースター"で冒険者に報告するよ。」
サブマスはビックリした。
「良いんですか?安直なヒューマンとモンスター。もじっただけなのに。」
「まぁ、分かりやすいし。あと考える時間が無駄。」
サブマスは苦笑いした。
「じゃあ混む時間なんで受付戻ります!」
サブマスも部屋を出てギルマスは1人になった。
「一気に動いたな……。リーツ、ライ……、もう人には戻れないのか?」
ギルマスは無いものねだりとわかっていてもギルマスは思わずにはいられなかった。
◆◇◆◇
ムーチーは1人で受付に向かった。
受付はクエスト依頼達成の冒険者でいっぱいだった。
『どうしよう……、ルルさんに報告するように言われているけどこれ無理だよね……。』
ムーチーは時間を潰すことを考え掲示板へ行き、明日のクエストを先に見だした。
『まだGランクだから1人で薬草採取に行くのは……、この短剣じゃ心もとないな。』
腰に差した新人冒険者用の短剣を見下ろし、苦笑いした。
「初日と同じ、街中のクエストを探そう。」
と思い、Gランクのところへ行くと数が少なかった。
「チビ、邪魔!」
急に後ろから右肩を掴まれて後ろに引っ張られた。その勢いでよろめき、尻餅をついた。
「だっせぇ。お前みたいな初心者でパーティ組めないような奴がクエスト取るんじゃねぇよ!」
見下ろしてきた少年はムーチーと同じく初心者の恰好をしていた。
『背が高いな。ん?パーティ?』
思い返してみればギルドから直接騎士団との合同クエストをしていたのでパーティを組むことなんて考えていなかった。
「なんだこいつ、黙ったままかよ。立ち去れ!」
そう言うとムーチーの足元へ唾を吐きかけた後、後ろの掲示板へ振り返った。
「さて、君のギルドカードを出してもらおうか。」
掲示板の横にはサブマスがいた。
『面倒ですね。早く受付に戻りたいのにいざこざを起こして。……。』
「なんすか?クエストは早い者勝ちだ!ただの受付は早くこの行列を処理してくれよ。」
さっきの初心者冒険者はサブマスに食って掛かった。
「私はここのサブマスです。さぁ、ギルドカードを。同じパーティを組んでる2人もね。」
威張っていた少年の横にいた頼りなさそうな少年と釣り目の女の子(同じくムーチーを見下ろしていた)に伝えた。
「げっ、ちょっとしたことじゃないですか?」
言い返したがギルマスは眼鏡の奥の目は一切笑っていなかった。
『業務を増やしやがって。』と内心は思っている。
◆◇◆◇◆◇
3人は諦めてギルドカードを渡した。
「君たちはHランクですか。懲罰クエストを2つこなしてもらいます。」
「げっ、これだけで懲罰クエストとか勘弁してくれよ。このソロの鈍間が悪いんだろ?なぁ、坊主。」
再びムーチーを見下ろした。
「はぁ。ギルドカードは預かります。明日懲罰クエストの説明があるので私のところに来てください。来なければ冒険者剥奪ですから。」
「くそっ、ざけんなっ。」
暴言を吐いてギルドを出て行った。
「サブマス、ありがとうございます。」
ムーチーは立ち上がり、お礼を言った。
「いえ、少年はルルを呼んでくるので個室で個人指名のクエスト報告をして下さい。」
サブマスはこの要件のために助けてくれたみたいだ。
サブマスについて受付に行くと、ルルを呼んだ。
「ルル、そちらの方が終われば交代で。」
ルルは顔を上げるとサブマスとムーチーが見えた。状況を察して返事だけした。
「はーい。」
ルルの列に並んでいた冒険者はがっかりした。
「ちぇっ、サブマスめ。ルルちゃんとの貴重な時間を……。」
どうやらルル目的の冒険者が多かったみたいだ。列を見ると男ばかりだ。
「サブマス、お願いします。」
ルルの列でため息が大量に聞こえた。
『ルルさん人気だな……。』
「さぁ、ムー君。移動するよ。」
ムーチーが呼ばれ、列の視線がムーチーへの睨みへ変わった。
『これからは時間を考えよう。命を狙われそうだ……。』
ムーチーは身の危険を感じた。
個室に移動するとギルマスからルルにギルドカードでメッセージが入っていた。
――――
・ターユンの要望を聞くこと。
・ウルキャットの目撃情報がある。詳細を。
・明日時間があれば私の部屋へウルキャットの報告を改めて行う。
・報奨金は幾分か時間貰うから全額渡さなくていい。
・新しい村で被害が出たので明日騎士団はそちらの調査へ、通常クエストを受けてもらうように。
ギルドマスター タッコル。
――――
最初のローユンの文字を見た時に顔が引きつっていたが全てを呼んで納得した。
「あー、なるほど。ギルマスからメッセージ来てた。」
「じゃあ、個人指名のクエスト報告をお願い。」
ルルはニッコリと笑った。
『この笑顔が多くの冒険者を虜にしているんだろうな……。』
ムーチーは納得して苦笑いをしながら薬草の入った袋を机の上に出した。




