第18話 従魔契約
「よしっ、契約終了!」
静まり返ったギルマスの部屋でルルはハートの従魔契約が終わったことを奉告した。
しかしギルマスが口を開かない。
ルルはギルマスを見るとクエストの紙を書いていた。
『いや、気まずすぎでしょ!ムー君も困ってるよ……。』
するといきなり扉が開いた。ルルとムーチーはびっくりして扉を凝視した。
「お待ちどーさん!」
声の主はクライシスだった。
「遅いぞ!おかげで変な空気になってたぞ。」
『あっ、ギルマスも気まずかったんだ。』
ルルとムーチーは顔を見合わせて思わず、くすりと笑った。
「仕方ないじゃないか。そんなこと言うなら調べた結果黙ってるぞ?」
クライシスは物ありげに話した。
「もったいぶらず報告!待ってたんだ、それなりの結果だったんだろうな?」
ギルマスの問いににやりとし、両手を腰に当て得意げに答えた。
「もちろんじゃないか!おっと、肝心の蝙蝠はいるかい?」
ムーチーを見たが手ぶらだった。クライシスが首を傾げるとルルが声を掛けた。
「クースさん、こちらですよ!先程まで従魔登録してたので。」
ルルが端の席にいたので気付かなかったのだ。
「ルルじゃないか!そちらに行く。」
クライシスは端の席へ行き、鳥かごの布を取った。
「テイマーの情報が少なくて部下に書庫を漁らせていたんだが、テイムには力量かお互いが尊重し合えたら契約できる。ここが他の従魔との大きな違いだよ。」
「そして、契約に必要なのが……。契約者の血なんだ!」
『ん?僕の血?』
「おいっ!そんな報告受けてないぞ?」
ギルマスがクライシスを睨んだ。
「ちゃんと伝えただろ?蝙蝠だから血が主食だったって!」
ギルマスは大きなため息とともに右手を額に当てた。
「頭が痛い、本人も驚いてるではないか!」
ルルがムーチーを見ると口をあんぐりと空けて固まっていた。
◆◇
「いやぁ、本人にはいってないっすよ?調査のためって多めに血を抜いてあげてただけで……、ムーの血しか飲まないから仕方ないでしょ!」
話を聞くにつれ、ギルマスの目は段々と鋭くなった。それにつられてクライシスはあわただしく答えていた。
「テイムのスキルレベルとテイム数は?」
「すんません、そればっかりは分かんないです。」
クライシスはけろっと答えた。思ったことは内心で押しとどめた。
『分からんものは仕方がない。』
「それはおいおい少年にも協力してもらわなくてはな。で、クース。直接言いたいこととはなんだ?」
クライシスは待ってましたとばかりに目を輝かせた。
「ムーが職業選択の紙を見て、ちょっと調べてみたんです。不確かなんですけどムーがモンスター化しない可能性、テイマーなんじゃないかと!」
「はぁ?」
ギルマスが予想外のことに素っ頓狂な声を出した。
「問題は今日テイマーではなく、剣士を選んでいたら……。僕も予想がつかない。」
お手上げとばかりに両手を挙げた。
「クースさん?あくまで予想ですよね?」
ムーチーは信じられないとばかりに聞いた。
「あぁ、だが2つの村にはテイマーはいないだろ?」
『確かに……。聞いたこともない職業だったから。』
「一理あるか……。少年、ここに呼んだ理由だが明日より個人指名で依頼をこなして欲しい。」
とギルマスは先程書いたクエストの紙を渡して来た。
・Fランク
内容:シンク村、キョクタ村周辺の薬草採取
報酬:銅貨2枚~
条件:騎士団2名の護衛付き
「これって……。」
ムーチーは驚いていた。現在2つの村周辺は立ち入り禁止だ。
「護衛はもし元村人がいた際に捕獲できるオーウェドと、モンスターを操れる可能性があるユウラだ。」
予想外の依頼だった。
◆◇◆◇
「理由は2つ。少年が唯一村人の特徴を知っている。後は、蝙蝠だ。」
ムーチーはハートを見た。
「こんな特殊な蝙蝠は人目に付く。森へ入るまで鳥かごの中。誰にも見られるな!それが従魔の条件だ。」
ムーチーは頷いた。
『確かに目立つよな……。』
「僕からはこれだ。とりあえず試すよ!」
剃刀の刃と軟膏、器を取り出した。
ムーチーの左手、小指の腹を器の上で軽く切った。器に血が溜まっていく。
「こうやって指先を切って、この器の線まで入れれば蝙蝠ちゃんは飲んでくれるよ。終わったら心臓より高い位置に手を挙げて、軟膏を塗ればすぐ血が止まるよ。」
軟膏を塗るとすぐに血が止まった。
『すごい……。こんな薬があるなんて!』
ムーチーは驚いていた。
「1日1回、夜にあげれば大丈夫だよ。」
説明が終わるのを待っている間、ギルマスはまたクエストの紙を書いていた。
「少年、もう1つのクエストだ。」
・F~Bランク
内容①:元村人の発見
報酬①:銅貨5枚~
内容②:元村人の捕獲
報酬②:銀貨1枚~
「見つかったらの話だ。動物やモンスターにより変動。報酬は最低額だ。」
『こんなに貰えるの?そもそも、Gランクですけど……。』
「明日から調査で騎士団の宿舎に9時で話がついている。帰り、ルルに薬草採取の本を貰うように。」
「ムー君、じゃあ行こっか。」
「僕も行くー!『ギルマスから逃げないとヤバい!』」
「クース……。」
「あっ、はい……。」
『クースさん、説教かな?』
ムーチーは何となく察したがルルとこの場を離れることに感謝し、受付に戻った。
「じゃあ。まずは初のクエスト達成おめでとう!」
2つのクエストの報酬、銅貨3枚と手のひらサイズの本が置かれた。
「これって、さっきギルマスが話してたやつですか?」
「そう、冒険者は基本皆持ってるよ。薬草採取のクエストの時に渡されるんだ!」
中を見てみると左ページに薬草の形、右側に簡単な説明と採取方法。最後には目安の報酬額が書かれていた。
「見て覚えていくといいよ。騎士団の2人もいるし、目安の報酬は時期とか採取状況で変動もあるし、3本セットとか条件もあるよ。」
「ありがとうございます、帰って早速読んでみます。」
ルルに手を振ってギルドを後にした。
◆◇◆◇◆◇
宿に帰るとハートとお金を机に置いて、ご飯を食べに降りた。
「おかえり、ムーチー君。ご飯食べる?」
「はいっ、お願いします!」
するとローユンは受付の後ろにある窓を開けた。
「ご飯2人分~。私も食べる。」
すると、窓の奥からの可愛い声が聞こえた。
「はぁ~い!」
「すぐ出来るからそこの開いてる席に座って待っていて!」
(受付の後ろに厨房あったんだ、しかも可愛いというより幼い声だったな……。)
と少し気になったが、聞くほどでもなかったので薬草採取の本を開いて読みだした。
「はい、前座るよ。」
ご飯と一緒にローユンも座った。本を読んでいたから自分の世界に入っていて状況が読めなかった。
「なんだい、いいだろ?ナオハもおいで!」
すると厨房から猫耳の小さな子が出て来た。
「お邪魔します。ナオハです。」
「彼がラットンさんから紹介の新人冒険者、今日から泊まるムーチー君だ。」
『僕と同じくらい?若いよね?』
ムーチーはぺこりと会釈した。声を出すと思ったことを口に出しそうだったのだ。
「薬草の本かい?てことは明日から薬草採取か、どこに行くんだい?」
ムーチーは周りに誰もいないのを確認してから伝えた。
「あの、内緒にできます?」
「そりゃーお客さんの信頼第一だからね!あと行く場所によっては直接買うからお願いしたいくらいだ。」
横のナオハも頷いた。
「ナオハはずっと厨房で働いているし、ここで寝泊まりしてるから安心していいよ。」
「立ち入り禁止のシンク村とキョクタ村の方です。」
ローユンは話を聞いて納得した。
「あぁ、ラットンさんからあそこの出身って聞いているよ。じゃあご飯食べよう。後で欲しい奴の現物見せるからもしよかったらよろしく!」
『いい人だな、ありがとう。ラットンさん……。』




