第15話 職業選択
『コンコンッ』
クライシスの報告で一同が固まっているともう1人入ってきた。
「すみません、整理して遅くなりました。」
『ん?この人誰だろう……。』
ムーチーが不思議そうに見ていると眼鏡越しに睨まれた。ムーチーは慌てて目を反らせた。
「会うの初めてだっけ?サブマスのカルーザさん。」
ルルに説明されムーチーが顔を上げると睨まれたままだった。声を掛けるのは得策ではないと思い軽く頭を下るだけにした。
「カルーザ、さっき始まったばかりだから問題ない。やはりキョクタ村もモンスターか動物になっている可能性があるそうだ。」
「ムーチー君は15歳の職業選択まではギルドの部屋を使ってもらって構わない。」
「その代わりギルドの研究所には毎日顔を出してもらう。所長のクースの指示に従ってくれたら空いたは好きにしてもらって構わない。」
ギルマスが続けざまに話しかけ、続けてルルがムーチーに、可愛らしく笑いながら付け足した。
「私が明日休みだから一緒に行動していろいろ説明するよ!」
『ルルさんが一緒なら安心だ。』
ムーチーはホッと胸を撫でおろした。
「クース、変化した人達の報告も頼む。」
「村長ゴブリンは現状ユウラが操っている。肉を食べさせれば基本大人しいから、安全のため手錠だけしている。」
「兎のエヴィーはペットとして管理って感じかな?あー……。」
と少し気まずそうに周りを見渡したが、サブマスと目が合うと舌打ちされた。
「蝙蝠はムーも誰か分からなくて、言いにくいんですが……。ムーの血しか食べないです。」
衝撃の事実に全員の目が真ん丸になった。
◆◇
「そうか、引き続き調査して欲しい。」
「ギィシャ、騎士団には2つの村の結界とその他被害が出た際の村の調査を頼む。」
「はっ。」
ギィシャは短く返事をした。
「明日は探索で出ていたものは休みで構わない。ユウラには鳥で定期的に見回りを頼む。」
「ギルマス、この少年は隔離すべきでは?」
サブマスは我慢の限界だと口答えをした、がすぐにクライシスが反論した。
「僕が安全を確認している。ムーに抗体が偶然あったのか、はたまた魔法適正の問題か……。一緒に行動した私達が無害であることは証明できるよ。」
「だそうだ。クースのところに毎日言って研究はしてもらうから異常が出れば教えてくれるだろう。」
間が空き、重苦しい雰囲気になった。そんな中、タッコルが目頭を押さえながら重々しく発した。
「やはり最悪の事態だな。明日ギルドで正式に発表するが、クエストについてモンスター討伐は当分禁止。」
「ルル、例のクエスト票を。」
ルルは手に持っていたクエストの紙を2枚ずつ、皆に渡した。配られているのを確認しながらギルマスは説明した。
「モンスター化された者を見分ける方法が無ければ討伐クエストが出せない。その代わり、周りの村の護衛とモンスターと動物の調査をし、捕獲。あるいは騎士団かギルドに報告、こちらで捕縛だ。」
『探してくれるんだ。マー、もっけ、リーツァ姉さん、キョクタ村のみんな……、大丈夫かな?』
ムーチーの交流はシンク村とキョクタ村だけだったので、全員いなくなったのだ。
「以上、ギィシャとクース、少年。調査で疲れているだろうからゆっくり休んでくれ。」
ルルと一緒に4人でギルマスの部屋を後にした。
サブマスは呼び止められていた。ギルドのトップ同士で話があるのだろう。
◆◇◆◇
それからは15歳になるまでギルドで寝泊まりをし、毎日研究所に通った。
クライシスは色々研究していたけど大きな変化は蝙蝠がムーチーに懐いてしまったことくらいだ。
「いやぁ、まさか最初はムーに噛み付くと思ったね!」
と驚いていた。
毎日の日課はギィシャの許可を得て騎士団の訓練場を使わせてもらっている。
たまに調査を共にした団員が一緒に走ってくれたり、剣術を教えてくれていた。
『村のことは心配だけど、いい環境だな。』
と職業選択の日まであっという間に過ぎていった。
ムーチーの誕生日当日、いつも通り騎士団の訓練場で日課をこなした。
「おはよう、ムー!」
食堂に向かう途中でクライシスが待ち構えていて、声を掛けて来た。
「クースさん、珍しいですね?」
「そりゃー15歳の門出だからね!終わったら研究所おいで。」
『何だろう?直接呼出しなんて……。まぁいつものことだし、これからの事もあるもんな。』
「ムー君、おはよぉ。後でここおいで~!」
考えながら食堂に入ったらすぐに声がかかった。ルルのは前の席を指さしながら言った。
「ルルさん!今日は早いですね?」
そのままご飯を取りに行った。
「兎の坊や、いよいよだ今日だね!今日は一日豪華にしているよ!」
食堂のおばちゃんがうきうきとしながらいつもより多めにご飯をよそってくれた。
『ほんとだ、すごく豪華だ!』
美味しそうなご飯を見ながらルルの前に座った。
「おばちゃんがムー君のために今日は豪華にー、って言ってたよ。」
ルルが嬉しそうにご飯をほおばっている。
『幸せそうだな……。今日も可愛いな。』
と思いつつ豪華なご飯を食べ切った。
「じゃあ、教会へ行ってらっしゃい!」
いつもの可愛く微笑みながら見送ってくれた。
「行ってきます!」
◆◇◆◇◆◇
協会はギルドのある噴水広場の反対側だ。
まだ時間が速いのに、多くの子供が中に入っていくその流れをみてムーチーも流れるままに中へ入った。
「月一度の職業選択の日です。15歳になられた皆さんは順番に司祭様の元へ来てください。」
と司祭の横にいたシスターが説明を始めた。
「順番で職業が決まる訳ではありません。戦闘職を選ばれた人はギルドへ登録することをお勧めします。では司祭様よりお言葉を……。」
子供ザワザワしだした。口々にどの職業がいいなど、呟いていると……司祭が左手を上げた。
《シーン!》
挙動1つで教会内は静まり返った。
「1人ずつ私の前へ。」
前列に座っている子供が列の順番のまま司祭の前へ歩いて行った。
「まずは説明しながらだ……。汝の職業候補をここに。」
羽ペンが独りでに紙に何かを書いた。
「神より与えられる職業候補は3つ。このように紙に書かれ、中には戦闘系が1つもない可能性もある。」
「シスターが並んでいるから空いているところで職業を選んで体の好きなところに職業紋を刻む。職業は1度選ぶと変えられないから慎重に。」
といいつつ髪を丸めて1人目へ渡した。
「では順番にどうぞ……。」
ムーチーは自分の番が来るまでみんなを見た。
『皆ライバルだもんなぁ。あ、あそこ……。』
シスターの前で泣き崩れるものがいた。
その横では人が群がっていた。見た目で分かるいい所の家の出だろう。服装が豪華だ。
「この剣聖様とパーティ組みたいやついないー?ハーレム希望だぞー!」
『うわぁ、天狗になってるよ。』
ムーチーは苦笑いした。
周りを眺めていると、あっという間にムーチーの番にきた。
「汝の職業候補をここに。」
スラスラと3つ書かれた。司祭は最後の1つを見て目を丸くした。
『んっ?最後何か変なの出たかな?』
不思議に思いつつ受け取り、シスターの前で紙を広げた。
――――
・大工職人
・剣士
・テイマー
――――
『テ、テイマー?聞いたことないぞ……。』
「人生が決まってしまうので慎重になるよね?ゆっくり選んでね?」
目の前のシスターが優しく声をかけてくれた。
『優しそうだな、少し聞いてみてもいいかな?』
と思っていると知らずの内に言葉として出ていた。
「あの、テイマーって聞いたことあります?」
ムーチーの言葉に目の前のシスターだけでなく、横にいた冒険者まで口をポカンと開けて固まった。
なのでムーチーは紙をシスターに渡した。
「あ、やっぱり聞かないですよね……。」
その言葉に目の前のシスターは我に返り、答えてくれた。
「数年に1度出るかどうかですね、戦闘職がない人しか選ばないよ。剣士があるから迷う必要ないんじゃない?」
「えっと、じゃあテイマーで。」
「えっ、いいの?」
ムーチーは頷いた。
『村のみんなのためを思うとなんとなくテイマーな気がしたんだ……』
『テイマー……、不思議と剣士を選ばなかったことに後悔はない。』
ムーチーは思い込みながら、周りの同い年をスルーしてクライシスが待っている研究所へ向かったのだった。




