第2話 ベオルグの森
はっとして目が覚めた。
同時に、体中が痛み出す。
――自分は、まだ生きているのか。
痛みを感じるということは、生きている証拠だ。
俺は情けなく呻き声を上げながら、体をゆっくりと起こした。
視界に広がるのは、一面の緑。
そこで漸く、ここに至るまでの記憶が蘇る。
ルシアンと別れた後、俺は第一騎士団と共に拠点であるオルーガに向けて馬を走らせた。
ヴァリエ公爵は、俺が敗走することも織り込み済みだったのだろう。オルーガへ続く道に、私兵を潜ませていたのだ。
奇襲を受けた騎士団は半壊。団長の機転で、俺は辛うじて命を繋ぐことができた。
――それはいいのだが。
団長の指示で俺が逃げ込んだのは、件のベオルグの森だ。
別名『迷いの森』などと言われるように、この森は一度入ったら出られぬという逸話も存在する。そんな場所に入った獲物を深追いするほど、ヴァリエの私兵は馬鹿ではなかったらしい。
――しかし、これからどうするか。
体は疲弊しきっており、立ち上がることもままならない。
どれほど気を失っていたのか分からないが、日も陰り始めている。
馬は――森に逃げ込む際に捨て置いてしまった。ここからオルーガまでは、人間の足では丸一日掛かる。
今の体力ではとても無理な道程だ。
「……はあ」
俺は膝を抱え、深い溜息を吐いた。
きっと今頃、フィリップの奴は喜び勇んで父に俺が戦死したなどと、告げている頃だろうか。
そんなに欲しいなら、もうくれてやる――なんて、簡単に言えないのは、先代たちが築いたこの国が、貴族たちの欲に蝕まれていく姿を見たくないから。この国の民を愛していた、今は亡き母を裏切りたくないから。
ならば、生きて帰らねばならない。そうと決まれば、行動に移すまで。
俺は膝に手をつきながらヨタヨタと立ち上がった。
日が暮れる前に、水場を見付けて火も焚く必要がある。ヴァリエの私兵に殺されるならまだしも、野犬に食われて死ぬなどは御免だ。
水場は案外、直ぐに見付けることができた。
問題は火だ。
この森は湿気が多く、火打石を使っても中々火が灯らない。そうしている内に、日は落ち周囲は暗くなっていく。
ベオルグの森は人が立ち入ることがない土地。それ故、獣も多く生息していると聞く。
俺は暗がりの中、必死に火起こしに徹するも、無情にも日は落ち夜が訪れる。
火を得られずに夜を明かすことになりそうだ、と半ば諦めかけたその時。
「――これは珍しい。人の子か」
それは、低く地響きのような声だった。




