149 去る秋の影
またまた大変、大変お待たせいたしましたーーーーーっ!!<(_ _)>
『イツキー?日課に行かないの?』
「あ、ああ、クオン。ごめんな、ちょっと気になって……」
どうしても見えた気がしたオレンジ色の影が気になり、フラフラと辺りを見回しながら畑へと到達していた。
そのまま精霊を象った象徴を刻んだ石が置かれている果樹の横を抜け、森の中へと進もうとしているとクオンから声を掛けられた。
『なんかフラフラしながら歩いていたよ?何があるの?』
「いや、それが俺にも分からないんだ。なんか見たような気がしてさ。……まあ、気になるけど、見当たらないしな。日課に行こうか」
『ふうん?じゃあ、日課から戻って来たら、今日は森へ皆で入って探すの!』
「ふふふ。そうだな。そろそろあまり採取は出来ないけど、皆で散策するのもいいかもな。じゃあ、そうするか」
もう野草もほとんど採れる時期が終わり、森でも果物もほぼ見かけない。それでも雪が本格的に降り出したら来れない子供たちが多くなる。その前に、食料の確保ではなく、ただの散策として森を歩くのも楽しいだろう。
そう思い、さっき見た影のことは意識からいったん遠ざけ、クオンと一緒に子供たちが集まっている広場へと引き返そうとした瞬間。
「あっ!!あ、あれっ!クオン、今の見えたか?」
『な、なんか、ふわぁって、森の奥へ何かが飛んで行ったの!』
「シルフじゃなかった、よな?」
『うん!シルフとは違っていたよ!』
今まで見た風に漂っているシルフは、全員が薄い色合いの髪と肌を持っていた。だけど、今見えたのは、明らかにオレンジ色だった。
「でも、精霊、だよな?」
『うーん、多分、そうだと思うの。でも……多分今まで一度も見たことのない精霊だったよ!』
精霊は代表的な土のノーム、水のウィンディーネ、火のサラマンダー、そして風のシルフ、それ以外にも植物を司るドライアードやスプライトなど、様々な精霊が存在している。
だが、フワフワと浮くことは多いが俺の目線より上を漂う精霊は、今までここ、アーシュの守護地や聖地でもシルフ以外はほとんど見かけたことがなかったのだ。
この世界における精霊は、世界を支える世界樹の補佐として大地を支える役目を負っている。
だから俺が知らない精霊も、まだまだ存在はしていても全くおかしいことはない。
でも、なんだかすごく気になるんだよな……。
ついにはっきりと確認出来た輪郭のはっきりしないオレンジ色の影が消えた森の奥を、ついじっと見つめていると、ユーラとキキリがやって来た。
「あれ、秋の精霊。でも、まだ力、足りない」
『精霊の影、みたいなもの、ギャウ』
「え、ええええっ!あ、秋の精霊、だって!じゃあ、あの雪ウサギと同じ、季節を司る精霊、ってことかっ!」
春、夏は見かけなかったけど、ここに来て秋かっ!! いや、秋の精霊が本当に復活したのなら、精霊の力が回復して来ていることだから、とんでもなく凄いことでいいことなんだけどなっ!!
「復活には、もうちょっとかかる」
「そうか……。それでも復活の兆しが見えた、ってことだもんな。……日課へ行く前に、ちょっと急いで祈って来る!もうちょっとだけ待ってって子供たちにも言っておいてくれ!」
ここに来てここで俺が秋の精霊の影を目撃したことが、オズの帰還をきっかけに思いついた精霊への祈りが、ほんの少しでも関係していたかもしれない!と思いつき、走って広場の外周に設置してある、ドワーフ達が彫ってくれた石を周り、一心に精霊へ祈りを捧げたのだった。
……当然のように、祈る俺の隣には、楽しそうに祈るノームやスプライト達がいたけどな!
急ぎ足で今朝に続いて二度目の祈りを終え、子供たちの元へ走って行くと、待ちくたびれた子供たちがいた。
シュウとジア達三つ子は既に聖地への道の両脇の森へと足を踏み入れており、ロトムやライが監視してくれている。
「待たせてごめんっ!さあ、聖地へ行こう!」
聖地へ歩きつつ、今さっき見た秋の精霊の影のことを子供たちへ告げると。
『フム。冬の次は秋、か』『復活の兆しだけでもめでたいな』
『ねえねえイツキ!冬は雪ウサギだったけど、秋はどんな姿だったの?』
しみじみとロトムは頷き、セランが楽しそうに跳ねつつ聞いて来た。
「姿、か……。俺が見たのは、オレンジ色の影だけだったからなぁ……。うーん、空を漂っていたけど、姿はどんなだろうな?」
『私にもオレンジ色の影だけで、はっきり見えなかったの。でもフワフワ浮いていたから、鳥だったかもしれないね!』
俺と一緒に目撃したクオンの言葉に、子供たちが『『『鳥!!』』』と盛り上がる。
ライがうれしそうにそんな子供たちの上空をクルクル飛び回っていた。
「そうだなー。スプライトとかの精霊達は人の姿に見えるけど、冬は雪ウサギにしか見えなかったしな。……季節の精霊は動物とか生物の姿だったりしたら、面白いかもしれないな」
秋でオレンジ色の影だったから……鳥も有りだけど、以外と虫型とかだったりしてな?フワフワ漂っているように見えたけど、蝶のようにヒラヒラ舞っていたのかもしれな。
『動物の姿の精霊なら、ケット・シーもクー・シーもそうだよね?』
『『『『『ミャウ!ワゥンッ!』』』』』
ねー!っとセランが足元の小さなケット・シーとクー・シーの子達と小首を傾げて笑う。
そして子供たちからは俺に、少しだけ呆れた視線が……。
そ、そうだったっ!……いや、でも、ケット・シーとクー・シー達とはサイズからして違そうだけど、でも、まあその時まで楽しみにしていればいいか。
その日はそれからも、秋の精霊がどんな姿をしているか皆で楽しく話しながら聖地へと向かったのだった。
そうして翌日に顔を出したアーシュにオレンジ色の影を見て、ユーラが秋の精霊の影だと言っていたことを告げると。
『ふぅむ。今度は秋、か……。そうだな。確かに精霊の力が、戻って来ているのかもしれんな』
え、えええっ!や、やっぱり、そうなのかっ!?も、もしかしてそれって……。
『やはり冬が多少無理を押してでも、戻ったのが良かったのだろうな』
って、まあ、分かっていたけどさっ!いくらドワーフ達が丹精込めて彫ってくれたとはいえ、俺が祈ったところで精霊の力が戻るなら、もうとっくに戻っているだろうしなっ!
「……ん?無理を押して、って、雪ウサギはたくさんいたぞ?」
俺が雪ウサギを見つけたのは偶然だったが、結局は冬の間中、たくさんの雪ウサギ達とユーラと子供たちと一緒に、毎日のように果物がなる溶けてしまう木を探していたのだ。
精霊としての力の発現を見たのは別れ際の時くらいだったが、あのオレンジ色の影のような今にも消えそうな感じは一切なかった。
『ユーラがここに居たからな。ユーラの力で存在が安定したのだ。元々冬は雪で大地も閉ざされて争いも少ないから、力の回復も早かったのだろうが』
……もしかして、ユーラが雪ウサギと挨拶を交わした時、額に触れたのは力を渡していたのか?いや、オレンジ色の影を見た時はユーラは見送るだけだったし、ユーラと挨拶をする前にきっちりと存在を確立していたからこそ、あれだけたくさんの精霊がいたのだろうし。
春と夏はずっと探していたが初見の精霊の姿は、影も形も発見することはなかった。それなのにここに来て秋の精霊の影を見かけたのは、冬の次に秋が争いが少なかったせいなのかもしれない。
そこまで考えて、冬の雪の中死にそうになりながら生き残った人達が、死に物狂いで春と夏の間争いを繰り広げ、秋になって必死で冬を越す為の食糧をかき集める姿を想像してしまい、そのあまりにも生々しいまでの暮らしぶりに自分の表情が今、嫌悪感で歪んでいるだろうと実感する。
冬は雪に閉ざされて厳しいけど、それは大地の休息の期間で。春になるといっせいに新芽が芽吹き、新しい生命が誕生し。夏はのびのびと健やかに成長し、秋は夏の成長を実らせる。その実りを人は受け取り、また冬の長い休息の期間を耐えるのだ。
日本で暮らしていた時は、自然の循環などについて考えたことなどなかった。実家はそこそこ田舎だったので、自然は身近でもあったが親しむ程でもなかったからだ。
でもこの世界へ来てからは、自然の移ろいに身をゆだね、精霊達やそんな自然の大地の恵みでもって生かされて来た。
……なんだか俺、この間アーシュの背に乗って空から見ただけで、この世界の街とかもう行きたいとは欠片も思っていなかったけど、この世界の人と関わりたいとも思わなくなって来たんだけど。
極限状態ならば、自分のことしか考えられなくなるのは仕方ないのだろう。そうは思うし、中にはシンクさんのケット・シーの集落と長く関わりを持っていた集落の人達のように、人としていい人もいるのだろう。それでも。
日本で暮らした感覚しか持ってない今の俺では、この世界では絶対に暮らせないだろうな。と、そう何故か強く実感してしまったのだった。
つい思考が人の悪意という闇という深淵へと向かってしまいそうになっていると、そこに掛けられたアーシュの言葉に、そんな思考はすぐに露と消えた。
それどころか一気に浮上して身を乗り出していた。
『……フム。秋の精霊が影を見せるくらいに復活して来たのなら、そうだな。イツキ。春になったらあの米、というのを作るのに稲という植物を栽培したいのだったな?』
「そうだっ、春になったら絶対に稲作をするぞっ!今のところは稲作には水辺の湿地のような土地が絶対に必要なんだけど、もしかしてどこかいい土地が見つかったのかっ!」
ククルカンの守護地の沼地で稲を見つけて無事に収穫し、ご飯を食べてからというものの、顔を合わせるたびにアーシュには滾々と稲作への熱意を訴えて来た。
そしてアーシュからも『稲作については考える』という言葉も貰っていたが、それからはいい返答は今まで一切なかったのだ。
ついに俺のご飯に対する熱い想いが、アーシュに届いたのかっ!
『そうだな。崖の上の池の周囲を使うのはいいが、あそこは見晴らしが良すぎて子供たちを連れて通うには少し心配だった』
そう、アーシュの守護地は森の中で、開けた土地はほぼなく、湖もないと聞いていた。だから守護地の外にはなるが、崖の巣の上の池の周囲の草原を使わせてくれ、と言っていたのだ。
確かに、それを言われたらそうだけど……。子供たちと毎日守護地の外へ出ることに反対されたら、まあ、それも仕方ないことは分かってはいたんだけどさ。
それでも絶対に春からの稲作は諦められないから、アーシュに毎回訴えていたのだ。
『だからいい土地がないかと、他の神獣、幻獣達に声を掛けてはいたんだが。精霊の力がそこまで戻っているのなら、許可も出るだろう。候補に名乗り出た守護地を、実際に回ってみるか?』
な、なんだってーーーーーーーーーーっ!!
今年の決算は色々重なり、4月はほぼ毎日残業でした( ;∀;)
やっと繁忙期が終わったので、GW中にもう一話、頑張って更新したいです。
(やっと次回から次の展開に進みそうですし(本当か?)
そして宣伝ですっ!
5/29日 GCノベルズさんより書籍3巻が発売されますっ!
今回もかわいい表紙をox先生が描いてくださいました。(予約サイトに公開になってます)
全編加筆改稿&書下ろしエピソード有ですので、予約をしていただけると喜び踊ります。よろしくお願いいたします<(_ _)>
(出版作品紹介にも登録しましたので、詳しくは見てみて下さい)
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