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ベラ伯母さま

 バークレー子爵家に療養に来てひと月ほどたった。

 季節はすっかり秋だ。

 昼間はすごしやすく、朝晩は冷え込む日が多くなった。

 春と秋と冬が長くて夏が短いシュレーゲル国なので、この後もゆっくり秋が深まっていくのだろう。


 バークレー家の人たちともずいぶん親交を深めた。

 お祖父ちゃまとは精霊さまや王宮の研究所のことなどたくさんおしゃべりをしたし、最初は怖かったエルマンノ伯父さまとも今ではすっかり仲良しだ。

 快活なベラ伯母さまは本当の娘のように可愛がってくれる。


 ただ一番仲良しになったのはアルノルド叔父さまかもしれない。

 太初の庭のことは叔父さまが一番詳しくて何でもすぐに教えてくれるし、植物や動物など色んなことを知っていて話すのが楽しくてならない。

 溺愛というレベルで叔父さまが私を可愛がってくれるというのもある。

 

 サマーを初めとする屋敷の使用人たちの顔もほとんど覚えたし、大勢いる庭師たちともあっという間に仲良くなった。

 太初の庭へ一緒に行ってくれる護衛で従僕のハワードは前世のラグビー選手のように体が大きくて強面だけれど、どんな遠回りでも厭わず連れていってくれるから大好きになったし、庭で集めた果物や木の実で毎回おいしい焼き菓子を作ってくれるコック長も仲良しのひとりだ。

 蔦のお屋敷で働く人たちはみんな好意的でホッとする。


 ひとつだけ残念なのは家つき精霊さまとまだ会えていないこと。

 精霊さまの存在を感じたことさえないけれど、いつか仲良くなれると信じてあまり意識しないように生活している。

 特に家つき精霊さまは姿を見せないだけですぐ隣にいるかも知れないのだから。


 そんな秋のある日。


「ミアン! 久しぶりね!」


「呼んでくださってありがとうございます!」


 茜色のポニーテールを揺らしてミアンが笑顔を見せた。

 今日バークレー家の屋敷へやって来たのは、王都にあるドレス工房『ギザルテ』のマダムとミアンだ。

 他にお手伝いスタッフを二人ほど連れていた。

 私のドレスを新しく作るために、エルマンノ伯父さまが呼んでくださったのだ。


 まずはベラ伯母さまの立ち会いの元、ドレスのデザイン選考からスタートする。


「本当に可愛くて素敵なドレスねえ。ジュリエッタに似合いそうなものばかり。こっちのドレスはジュリエッタの愛らしさにぴったりだし、このドレスは清楚で抱きしめたくなっちゃう。ああでも、やっぱりこのフリルがたっぷり付いたドレスは乙女の夢よねえ。いいわ、この際だから全部作ってしまいましょう!」


「えええっ!?」


 ミアンのデザイン帳を捲りながらベラ伯母さまが上機嫌で声を上げた。


 伯母さまは女の子が欲しかったんだと言って私をとても可愛がってくれる。

 一緒に何度もお茶会をしたし女同士の秘密のお話会もやった。

 秘密のお話会というが、何のことはない恋の話のあれこれだ。

 エルマンノ伯父さまとの運命的な出会いや結婚にいたるまでの紆余曲折、私が好きな男の子のタイプはどんなかと訊ねられたりもした。

 ただ私はまだ七歳で、好きな男の子のタイプと言われてもパッとこない。

 

 前世ではキース王子に熱を上げていたけれど、あくまで憧れの範疇。

 実際に付き合いたいかと言われると全力で首を横に振る。


 だってあんなキラキラ王子と付き合うなんて絶対ムリ!

 

 顔面偏差値は高すぎるし優しくて凜々しいまさに正統派の王子キャラだ。

 外見はマンガヒロインの美少女でも中身が地味で残念すぎる私には眩しすぎる。


 原作マンガのジュリエッタは、天真爛漫なキャラクターだったせいか何の屈託もなくキース王子とおしゃべりしてデートも思いっきり楽しんでいた。

 でも普通の貴族子女だったら、あんな素敵王子さまを前にしたらガチガチに緊張するしテンパってしまうだろう。

  

 私はもう少し普通の男の子がいい。

 たとえば……。


 ふと、黒髪がきれいな男の子の顔が思い浮かんで慌てて頭を振った。

 

 ないないっ!

 キース王子と双璧をなす麗しのお色気担当さまなんて全然普通じゃない!

 

 今の少年時代の彼がちょっと話しやすいだけで、将来絶世の美貌と色気を従えるあのにっこり腹黒公子へと成長することを思うとただのお友だちで十分だった。

 いや、お友だちでさえおこがましい。

 もしかしたら今後会えないこともあるかもしれないから知り合いってところ?


 そんなわけで伯母さまには自分のことは曖昧にしか答えられなかった。

 まだ子供だし男の子との出会いもほとんどないから仕方ないだろう。

 それにベラ伯母さまとのおしゃべりは恋の話に限らずいつもとても楽しい。

 

 女性にしては背が高くてすらりとしたベラ伯母さまはエルマンノ伯父さまと結婚するまでなんと女性騎士として王宮で働いていたという。

 伯母さまの実家であるウルルレマン伯爵家は代々騎士を輩出する名家で、伯母さまのお父さまは王国騎士団の総長というのだから驚きだ。

 王国騎士団には女性騎士もめずらしくないようで、伯母さまも幼い頃から騎士の訓練に励んだそうだ。


 道理で伯母さまがかっこいいわけだ。

 無駄のないきびきびとした立ち居振る舞いも凜々しさに拍車をかけるのだろう。

 それでも所作が丁寧なせいかちゃんと女性らしさも感じる。


 そんなかっこいい伯母さまなのだが、実は小さくて可愛いものが大好きらしい。

 ヒロインという設定のために美少女に生まれついたジュリエッタのことも、だからことさら可愛がってくれる。


 ただ、こんなにたくさんのドレスはもったいない!


「あのっ、ベラ伯母さま。そんなに何枚もドレスはいらないわ。一枚でいいの。それにお出かけといっても連れていってもらうのは王宮の研究所だから、あまりおしゃれしなくていいの。フリルがたくさん付いた大きなスカートは茂みを通るのに邪魔になるし」


「ふふ、ジュリエッタは案外おてんばさんよね。でも、こんなドレスを着たときは茂みを通り抜けたりしないものよ。それにドレスは何枚あっても困らないわ。王宮では昼と夜ではドレスを替えるし、ジュリエッタは何を着ても似合うんですもの。とても有意義な投資よね。お義父さまも旦那さまもジュリエッタには甘いから、この際たくさん買ってもらいましょう! ああ、このロングトレーンもいいわね。子供らしく裾はそんなに長くないけれどロマンティックだわ」


「伯母さま……」


 投資じゃなくて散財の間違いじゃないかしら。


 小さい頃から可愛いドレスが似合わず着られなかったというベラ伯母さまのドレス熱は本当にすごかった。

 ミアンのドレスデザインが素晴らしいせいもあるだろう。

 私をイメージしたというだけあって、デザイン帳に描かれたドレスはどれも私に似合いそうなものばかりでとびっきりの可愛さだった。


 そうして面白いことに、ジュリマリのマンガの中でジュリエッタが着ていたドレスとは色も形も雰囲気も全然違う。

 確実に、私が原作マンガのジュリエッタとは違ってきているのだろう。


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