精霊さまと仲良くなる方法
「やっぱりこのお屋敷には家つき精霊さまがいらっしゃるのね! すごいっ、私にも見えるかしら? 会ったら仲良くなれる? お祖父ちゃまは会ったことがおありになる?」
「残念ながらないんだ。カテリーナ叔母さまとケンカしてご機嫌を損ねてしまったらしくてねえ、私が生まれる前からもう姿を見た者はいなくなったんだよ。でもジュリエッタだったらいつか仲良くなれるかもしれないねえ」
「本当!? そう思う? お祖父ちゃま!」
「ああ。何せ野生のギンブチモミジ蝶を指にとまらせたんだから。本当に聞いてびっくりしたよ。ぜひその場に私もいたかった。精霊さまのみ使いとも心を通わせられるジュリエッタなら、精霊さまだって仲良くなりたいと思ってもおかしくない」
「うふふ、ふふふ」
お祖父ちゃまの嬉しがらせはとても上手で、私はにまにまが止まらなくなる。
「カテリーナ叔母さまのルーチェの呼子をもらったのも証拠だろう」
「……うーん。あのね、そのルーチェの呼子、本当は私がもらったかどうかはわからないの。私が暖炉の中で声を上げたから、精霊さまはびっくりしてこの笛を落としたのかもしれないのよ」
「それがすごいんだよ。ジュリエッタの声に何かしら精霊さまの気を引くものがあったから反応したんじゃないかな。カテリーナ叔母さまがいなくなったあと、誰がどんなに呼びかけても姿どころか気配さえ隠してしまっていたんだからねえ」
お祖父ちゃまは持っている笛を優しく撫でたあと、私を見た。
「このルーチェの呼子はジュリエッタのものにするといい。本当はジュリエッタには新しい笛を準備していたんだけどね。古いものだが美しい笛だし、今の職人技術では成し得ない細工が施されている貴重なものだ。ずいぶん昔の――カテリーナ叔母さまの曾祖母だった方から譲り受けたものだと聞いたことがある」
「いいの? 嬉しい! 素敵な笛だと思っていたの」
お祖父ちゃまが私の首にルーチェの呼子をかけてくれた。
少し長めのネックレスの先にぶら下がった美しい笛にテンションも上がる。
「本当にきれいね。これを持っていたら家つき精霊さまとも仲良くなれるかしら」
「なれるかもしれないねえ。では、そんなジュリエッタにひとつアドバイスだ。精霊さまと仲良くなりたかったら、必死になって精霊さまを探し回ったり追いかけ回したりしてはダメだよ。その子の方から近付きたくなるような行いをすることが大事なんだ。そうしたらいつか存在を示してくれるかもしれない」
お祖父ちゃまのアドバイスに私は青くなる。
「どうしよう。私、昨日も今日も精霊さま探しをしたわ。お屋敷中の暖炉の中を覗いて歩いたの。このルーチェの呼子を見つけたのも暖炉の中に入り込んだからよ」
「ほっほっほっ、少しくらいならいいんだ。精霊さまだって好意を持って探されるのは嫌いじゃないらしいし、子供が精霊さま探しをするのはいつの時代も同じだからねえ」
「うーん……?」
だったら何がダメなんだろう。
どうしたら精霊さまと仲良くなれる?
うなる私の頭をお祖父ちゃまは優しく撫でてくれる。
「なに、難しいことじゃない。変に意識せずに普段通りの生活をすればいいだけだ。精霊さまがいないかと騒いだり気配を探って追いかけ回したりしなければいい。精霊さまが好きだと心で思うだけで彼らには十分伝わるんだから」
「心で思うだけでも?」
「ああ。精霊さまは人の心に敏感だからねえ。ジュリエッタだって、大好きだからといつも追い回されていたら困るだろう?」
「……うん」
お祖父ちゃまの言うことはわかるし、確かに難しくはない。
けれど精霊さまが大好きで一度でも姿を見たいと願ってやまない私にとっては、とてもとても難しいことだった。
特にこの屋敷や庭は精霊さまがすぐ近くにいるような不思議が多い場所だ。
精霊さまを探して歩き回りたいくらいだからもどかしい気持ちになる。
「家つき精霊さまはねえ、人を好いてくれるくせにとても臆病らしいんだ。嫌だなと思ったり困ったりしたらますます存在を隠してしまうかもしれない」
「うう、わかったわ。私、もう暖炉の中を覗いたりしない。精霊さまのこともあまり意識しないですごすようにするわ」
要するに加減しろってことよね。
お祖父ちゃまが言うには精霊さまはとても自由で気まぐれで個性が強いらしい。
大きかったり小さかったり、人が好きだったり人が嫌いだったり、長生きだったりすぐ儚く散ってしまったり、寒がりだったり暑がりだったり。
騒がしいのは苦手だが賑やかなのは好きという精霊さまも多いという。
騒がしいと賑やか、境目はどこだろう?
要するに精霊さまにもいろんなキャラクターがいるようで一概にどうとは言えないのが本当のところのようだ。
そんな中で家つき精霊さまは比較的人が好きで人の傍にいることが多いという。
人の生活を見るのが好きで、姿はなくとも案外近くでいつも観察されていると伝承では残っているそうだ。
そうして相性があるというのも大きな特徴のようで、他の精霊さまは見えなくても家つき精霊さまだけは見ることが出来たり、反対に精霊の愛し子さまでも家つき精霊さまは見ることが出来なかったりということがあるらしい。
お祖父ちゃまの話を聞くとますます精霊さまが大好きになる。
会ってみたいと熱望した。
「はあ、とても楽しい。お祖父ちゃまは本当に精霊さまのことに詳しいのね。どうしてそんなに何でも知っているの?」
「ほっほっほっ、私もジュリエッタと同じだったからだよ。小さい頃は精霊さまが見たくて見たくて屋敷中を探して回ったんだ。いろんな人に精霊さまのことを聞いて回ったりもしたねえ。蝶の研究をするようになったのも、蝶は精霊さまのみ使いだって知ったからなんだよ」
お祖父ちゃまの話はびっくりすることばかりだ。
もっと話を聞きたかったけれど今日は屋敷を歩き回って疲れたせいか眠くなってしまった。
頑張っていたけれどベラ伯母さまに気付かれて就寝することになる。
お休みの挨拶の前にあとひとつだけお祖父ちゃまにお話することがあった。
「お祖父ちゃま。このルーチェの呼子、せっかくもらったけれど、もしかしたら精霊さまにお返しすることになるかもしれないの」
精霊さまが間違って落とした可能性もあるかと暖炉の中で部屋に取りに来てと伝言を残した話をすると、お祖父ちゃまは微笑み他の皆も楽しげに笑い出す。
「家つき精霊さまがその笛を取り戻しに来たら、ジュリエッタにはまた新しいルーチェの呼子をプレゼントしよう」
お祖父ちゃまはそう約束してくれた。
その夜、ルーチェの呼子はテーブルの上に置いて就寝した。
夜中夢うつつに、髪飾りとして使っている――夜は水盤に休ませていた――金色鈴のもみの木の鈴の音を聞いた気がした。
家つき精霊さまが来てくれたんだと夢の中で喜んだけれど、朝になって見るとルーチェの呼子は寝るときとまったく変わらずテーブルの上にあってがっかりする。
そうして一週間ほどたってもルーチェの呼子はそのまま。
精霊さまが姿を見せてくれることもほんの些細な物音を聞くことさえなかった。
「このルーチェの呼子、私のものにしていいのよね……?」
テーブルから笛のネックレスを取り上げて自分の首にかけることにする。
精霊さまが取りに来てくれなかったことが少し残念で、でもこの素敵なルーチェの呼子を自分のものにすることが出来て嬉しいという複雑な気分だった。
蔦のお屋敷に来てまだ一週間です。
ここまで長かった…。
次はひと月後のお話になります。




