1118話 確認作業と魔法陣
「無事は確認できたし、魔物の確認作業をしましょうか」
ランカさんの言葉に全員が頷くと、それぞれが討伐した魔物のところへ行く。
「アイビー、今日はどうだった?」
お父さんは討伐した魔物の確認を終えると、私を見る。
「29本中命中したのは8本だけだった。かすったのは14本で大きく外れたのが3本だったかな」
「そうか。命中した本数が昨日より多いな」
「うん。でも大きく外した数も、今日は増えてしまったんだよね」
昨日は1本だけだったのに、今日は3本も外してしまった。
魔物の動きが思ったより早くて、少し焦って矢を放ってしまったのが原因だろうな。
「原因はわかっているのか?」
「焦りだと思う」
「それは気を付けないと駄目だな。魔物を相手にする時に焦ると怪我につながるから」
「うん。わかった」
冒険者として登録してから、お父さんもランカさん達も、私を守る存在ではなく、1人の冒険者として扱ってくれるようになった。
だから、こうやって注意もしてくれる。
それが、仲間として認められているようで嬉しいんだよね。
「俺が討伐した魔物は問題なし。ドルイドが討伐した魔物はどうだった?」
ラットルアさんが私たちのところへ来ると、お父さんの討伐した魔物を見る。
「調べた魔物に問題はなかったから、このまま放置でいいだろう」
討伐した魔物は、おかしなところがないか、変異しているところがないかを確認する事になっている。
もし、気になるところがあれば、冒険者ギルドに魔物を持って帰る。
問題が見つからなければ、食べるために解体してもいいし、そのまま森に置いてきてもいいそうだ。
ただし、王都から近い場合は、魔物はすべて燃やすと決まっている。
「よし、こっちは終わり。ランカ達のところへ行こうか」
ラットルアさんが、ランカさん達の気配があるほうを見る。
「そうだな。肉はいいのか?」
お父さんの問いに、ラットルアさんが首を横に振る。
「連日の討伐で疲れているから解体はやめておくよ。それに、昨日までの討伐で結構な量が集まったからな」
ラットルアさんが少し疲れた表情をすると、お父さんも頷く。
「3日連続の討伐はちょっと疲れるな」
「やっぱり、そうだよな。明日は休めるように、ランカに依頼を受けないようにお願いするか」
話しながらランカさんのところへ戻ると、ランカさん達が神妙な表情で話しているのが見えた。
「問題があったみたいだな?」
ラットルアさんの呟きに、お父さんと私は頷く。
「何かあったのか?」
ラットルアさんの問いに、ランカさんが討伐した大きな魔物を指す。
「その魔物の、右側の前脚を見て」
言われた場所を見ると、茶色の少し太い紐が絡まっていた。
「ぺふっ!」
ソラ達と飛び跳ねる高さを競っていたソルが、なぜか嬉しそうに鳴きながら魔物の前脚に近付く。
「ソル、どうしたの?」
「……ぺふ~」
私の問いに、ソルはなぜか悲しそうな鳴き声を上げる。
私は心配になってソルの頭をなでると、ソルが魔物の前脚をジッと見つめている事に気付いた。
前脚に絡んでいる紐が気になるのかな?
でも見た目は、少し太いただの茶色の紐だよね。
そもそも、どうして魔物の前脚に紐が絡まっているんだろう?
「さすがソル、気付いたのね」
ランカさんの言葉に、私は彼女を見て首を傾げる。
「その紐の先に丸い板がついているんだけど、魔法陣が描かれているのよ」
魔法陣?
魔物の前脚に絡まっている紐を辿っていくと、確かに丸い板が見えた。
でも、角度が悪いのか魔法陣は見えない。
板をひっくり返したら、魔法陣が見えるかな?
でも触ったら駄目だろうし。
「アイビー、その魔法陣は触っても大丈夫よ」
私の考えがわかったのか、ランカさんが少し笑って言う。
「ありがとう」
ランカさんにお礼を言って、そっと板をひっくり返す。
そこには、確かに魔法陣が描かれていた。
「この魔法陣、発動していたのか?」
魔法陣を確かめたお父さんが、ランカさんとシファルさんを見る。
「あぁ、発動していたと思う。というか、魔物を調べた時に、魔物の前脚のその紐がかすかに光っている事に気付いたんだ。でも、気付いてから数秒後に光は消えた。少し様子を見て、何も起こらない事を確認してから紐を調べて、魔法陣が描かれている板を見つけたんだ」
「そうか」
シファルさんの説明に頷くと、お父さんが魔法陣をジッと見つめる。
「この文字、別の魔法陣で見た事がある」
「ドルイド、あまり魔法陣を見るなよ。魅入られるぞ」
シファルさんの注意に、お父さんは板から手を放す。
「そうだな」
「この紐、どうやって魔物の前脚に巻き付けたんだろうな」
ラットルアさんが紐を少し引っ張りながら聞くと、ランカさんが首を横に振る。
「少し調べたけど、まったくわからなかったわ。この魔物、この状態のまま冒険者ギルドに持って行くから」
ランカさんの言葉に、ヌーガさんが魔物を入れるマジックバッグを準備する。
そして、皆で協力して魔物をマジックバッグに入れると、使用した矢を回収する。
「後片付けも終わったし、王都に戻りましょうか」
ランカさんの言葉に、皆で王都に向かって歩き出す。
「そうだ。ランカ」
「何?」
ラットルアさんの呼びかけに、ランカさんが首を傾げる。
「明日は休もう。そろそろ疲れてきた」
ラットルアさんの言葉に、ヌーガさんが頷く。
「え~、もう? まだ3日よ?」
「もう3日! 3日も森の奥へきて、魔物を追いかけまわしているんだから、そろそろ休みが必要だと思うぞ」
ランカさんの不満そうな声に、ラットルアさんが少し声を大きくして言う。
「ん~、でも……」
「ランカ、もしかして明日の依頼を、すでに受けてしまっているのか?」
ランカさんの様子を見たシファルさんが聞くと、ランカさんが視線を逸らす。
「…………」
「ランカ?」
シファルさんの静かな呼びかけに、ランカさんの肩がピクッと動く。
「…………明後日まで……」
「はっ? 明後日まで依頼を受けているのか?」
ラットルアさんが驚いた表情でランカさんを見る。
「はぁ、ランカ」
「何?」
シファルさんがランカさんを呼ぶと、彼女は伺うようにシファルさんを見る。
シファルさんは、その視線に笑顔を見せると、私を見た。
「えっ? 私?」
「アイビーは上位冒険者だけど、冒険者としては初心者だ」
うん、そうだね。
シファルさんの説明に私が頷くと、ランカさんが気まずそうな表情をした。
「連日の依頼に慣れている俺でも、さすがに5日連続の討伐はしんどい。それなのに、冒険者になったばかりのアイビーに、5日連続の討伐依頼をさせるのか?」
「ごめん。元同僚からお願いされてしまって。アイビーもごめんね」
ランカさんが私を見て小さく頭を下げる。
「上位冒険者の数は足りていると思うけど、何かあったのか?」
シファルさんの問いに、ランカさんが神妙な表情になる。
「詳しくは聞いていないんだけど、魔法陣を組み込んだ道具が、王都のあちこちにばらまかれたみたいなの」
「えっ? そうなの?」
魔法陣を組み込んだ道具が?
「うん。それを回収するのに、上位冒険者が駆り出されているのよ。魔法陣に興味を持つような冒険者には、回収依頼は出せないでしょう?」
「そうだな。回収した魔法陣に興味を持って、最悪、魅入られたら終わりだ」
シファルさんが頷くと、ラットルアさん達も頷く。
「でも休みは必要よね。冒険者ギルドに言って、討伐期日を伸ばしてもらうわ」
「大丈夫ですか?」
ランカさんを見て言うと、彼女は笑って頷く。
「期日を1日か2日、伸ばしてもらうだけだから大丈夫よ。連日依頼を受ける時は、よくあるお願いだから」
そうなんだ、それならお願いしよう。
さすがにちょっと疲れた。




