1116話 隣町とそれぞれの問題2
ーテイマー ミミーナ視点ー
「あの魔法陣、ちょっと変な噂が流れたよな」
カシム町の上位冒険者が仲間に向かって呟く。
「どんな噂だ?」
ガボが、呟いた上位冒険者を見る。
「魔法陣には関わりたくないので、調べてはいません。ですから、その点を踏まえて聞いてください」
「わかった」
カシム町の上位冒険者の言葉にガボが頷く。
「店から押収した、魔法陣が組み込まれた道具を調べたところ、描かれていた魔法陣が少しずつ違っていたらしいんです。商売道具に、普通はそんな事をしませんよね」
「そうだな」
上位冒険者の問いに、ガボが神妙な表情で頷く。
「それと、魔法陣を描く為に店は3人の従業員を雇ったそうなんですけど、捕まったのは2人で、1人は行方不明なんです」
「えっ、3人目の顔を誰も覚えていないから、実際に雇われたのは2人だったなんて、言われていなかったか?」
カシム町の上位冒険者の一人が声を上げる。
ガボは彼を見ると、首を傾げる。
「顔を覚えていない?」
「捕まえた者達を尋問した冒険者ギルドの職員から聞いたんですけど、店主が3人を雇ったと供述したそうです。でも、3人目の事を話そうとしても、名前も顔も思い出せない。だから、3人目はいなかったんじゃないかと言われていて……。まさか、存在したという証拠が見つかったのか?」
仲間の言葉に、聞かれた上位冒険者は頷く。
「雇用契約の書類が見つかったらしい。王都へ向かう前に立ち寄った冒険者ギルドで、職員達が話していた」
「そうなんだ。でも、顔を覚えていないって……魔法陣でそんな事が出来るのか?」
カシム町の上位冒険者3人が、ガボを見る。
「魔法陣はいまだわからない事が多い。でも、記憶を操れる可能性があるとは聞いた事があるな」
ガボの説明に、カシム町の冒険者達が嫌そうな表情をする。
「これからも関わらない方向で決定だな。そんな恐ろしいものに触れたくもない」
1人の言葉に、残りの2人が真剣な表情で頷く。
「でも、道具に勝手に組み込まれたら気付かないわよね」
つい言ってしまった私の呟きに、3人が悲壮な表情で私を見つめる。
「あ~ごめん」
「いえ、今回も知らない間に魔法陣が組み込まれた道具を持っていた冒険者が多かったです。というか、魔法陣を組み込んだ道具だと知っていたのは、2人だけだったそうですから」
上位冒険者の説明に、私は頷く。
「王都でもちょっと出回っていると聞いたわ。道具を買う時には、気を付けないといけないわね」
私の呟きに、全員が頷く。
「魔法陣を組み込んだ道具の事件だけど、王都の冒険者ギルドには報告したんだろうか?」
ガボの問いに、カシム町の上位冒険者達は頷く。
「していると思います。ギルマスが『魔法陣、無理! もう嫌だ! 王都のギルマスに丸投げしてやる』と叫びながら報告書を書いていると、職員が話していましたから。でも、どうしてですか?」
彼の説明に、私は少し首を傾げる。
カシム町の上位冒険者達が騙されたとわかった時、カシム町の事も話題に上がった。
あの時、ギルマスはカシム町の魔法陣の事件について何も言わなかった。
魔法陣とは言えなくても、大きな事件があったとは言える筈だよね?
魔法陣の事件は関係ないと思った?
まさか、魔法陣の事件を知らないとか?
「いや、少し気になっただけだ。ありがとう」
「いえ、では俺達はここから戻ります。あの、もしもまたカシム町の上位冒険者が見かけたら、問題が起こっている事を伝えてくれますか?」
「もちろんだ」
ガボの答えに、カシム町の上位冒険者達は安堵した表情で頷き、すぐに出発した。
それを見送っていると、カシメ町の冒険者達がマルスに声を掛けた。
「俺達もすぐに出発するよ」
カシム町の上位冒険者達と話している間に、出発準備を終えたらしい。
「その事なんだが……」
マルスが、カシメ町の上位冒険者達を見る。
「俺達とは別の道からカシメ町に戻ってくれないか?」
マルスの言葉に、カシメ町の上位冒険者達が首を傾げる。
「上位冒険者の多くは、森の中を通るからさ」
マルスの説明に、みんな納得した様子で頷く。
「わかった。マルス達は村道を進むのか?」
「その予定だ」
「それなら俺達は、村道の右側の森を通ってカシメ町に戻るよ」
「頼むな」
マルス達は地図を出して、彼らの戻る道を確認する。
「よし、決まった。また、カシメ町で」
シャーガさん達は、マジックバッグを肩から下げると、森の中へ入っていく。
それを見送ると、私達もデズに乗り込み、カシメ町に向かって出発した。
「ガボ」
私はさっきの事が気になる、少し後ろに乗っているガボに声を掛ける。
「どうした?」
「ギルマスが、カシム町の魔法陣の事件を知らない事ってある?」
「ないだろうな。カシム町の冒険者ギルドから報告が来るだろうし、別のところからも報告が届く筈だ」
やっぱりそうだよね。
「魔物のお披露目の時に全く触れなかったのは、周りにどんな者達がいるかわからなかったからだろう。それに、魔法陣を描ける者が1人行方不明みたいだし」
「それ、やっぱり危険?」
「かなり危険だと思うぞ」
私とガボの会話にマルスが首を傾げる。
「そんなに危険なんですか? カシム町の上位冒険者の話ぶりから、冒険者ではなかったみたいですが」
「普通の状態なら問題ないだろうな。でも、魔法陣を少しずつ改良していたところを見ると、魔法陣に魅入られている可能性がある」
「あっ……そうか。それがありましたね」
ガボの説明に、マルスがハッとした表情を浮かべた。
「魔法陣に魅入られるって聞いた事がありますけど、実際はどうなるのか知ってますか?」
カルの問いに、ガボも私も黙り込んでしまう。
魔法陣に魅入られ、そして死んだ親友を思い出す。
「知っているわよ~、知りたくなかったけどね~」
グークに乗っているキララののんびりした声に、私はふっと笑ってしまう。
「そうね、知りたくなかったのに、知っているわね」
魅入られないように細心の注意を払って、魔法陣を研究していた親友。
でも、その威力や何でも行えてしまう危うい存在に、どんどん魅入られてしまった。
研究仲間が彼女の異変に気付き、止めようとしたが、彼女は自分が描いた魔法陣で仲間を殺害してしまう。
結果、彼女は「手遅れ」と判断され殺された。
「魔法陣に魅入られるとね~。まず、どんな時でも魔法陣に触れたくなるみたい。というか、魔法陣の事しか考えられなくなる感じかな~」
のんびり話すキララに、マルス達は真剣な表情で頷く。
「そして、寝食を忘れてさまざまな魔法陣を描き続けるみたいね~。異変に気付いて止めようとする者は、容赦なく排除しようとするわ。そして描いた魔法陣を試そうとするみたいね~。最後のは聞いた話ね。私達は排除までしか知らないから」
キララの説明にマルス達は少し考えたあと、頷いた。
「わかりました。ありがとうございます」
マルスのお礼にキララは笑顔で頷く。
「カシム町の上位冒険者と同じで、これからも魔法陣には関わりたくないな」
ホタタが呟くと、マルスとカルは頷く。
「でも、ミミーナの言った通り、これからは気付かない内に持っている可能性があるだろうな」
ガボの言葉に、全員から溜め息がこぼれた。




