1115話 隣町とそれぞれの問題
ーテイマー ミミーナ視点ー
「いた! 大きな木の傍で休憩しているのは、カシメ町の上位冒険者達です」
王都を出発してから半日。
デズに乗せたカシメ町の上位冒険者の一人、マルスが声を上げた。
彼の指すほうを見て、私は頷く。
「わかったわ。デズ、もう少し先の大きな木の下で止まって」
私の声が聞こえたのか、デズはゆっくり速度を落とし始める。
指定した場所を見ると、6人の冒険者達が口をあんぐりと開けて、こちらを見ていた。
まぁ、イッカクギが自分達に向かって来ているとわかったら、そうなるでしょうね。
この半日で、村道を使用している冒険者達に、何度も悲鳴を上げられてきたから、彼等は静かでいいわ。
「マルス! カル! ホタタ! おま、なんで、えっ。えっ」
デズに乗っているマルス達に気付いたのか、冒険者の1人が声を上げる。
彼がカシメ町の上位冒険者かしら。
傍にいる3人が同じチームかな?
雰囲気が異なるから、残りの3人は別チームかもしれないわね。
「話がある、そこで待っててくれ」
マルスの声に、声を上げた冒険者が右手を上げる。
「わかった。……そのイッカクギ、襲ったりしないか?」
やっぱりイッカクギが迫ってくると怖いよね。
「大丈夫だ。とても大人しくて、優しい子だから」
そうなのよ。
デズはとても大人しくて優しく、そしてとても賢いんです。
「デズ、今、声を上げた冒険者の近くで止まって」
デズは私のお願いに、冒険者のすぐ近くで、ぴたりと止まった。
「うわっ」
目の前で止まったデズに、上位冒険者から小さな声が上がる。
デズは、その声に反応したのか、上位冒険者をじっと見つめた。
「ひっ。いや、大丈夫なんだよな。それにしても、凄いな~」
目の前に迫ったデズを見ながら、カシメ町の上位冒険者が小さな声で呟く。
その様子を眺めながら、私はデズの頭を撫でた。
「デズ、ありがとう」
「イッカクギのテイマー? やだ、凄い! しかも近い! 凄い、やばい、凄い」
かなり興奮した女性の声に視線を向けると、デズを見つめる冒険者の女性がいた。
そして私と視線が合うと、デズを気にしながら私に近付いてきた。
「あの、ちょっとだけ触っても。いや、触ったら駄目だよね。でも~」
どうやらレアな上位魔物を目の前にして、舞い上がっているみたいだ。
「大丈夫ですよ。撫でるくらいなら」
「ひゃあぁぁ! 良いんですね、ありがとう。では、失礼いたします」
興奮状態の女性冒険者は、私の言葉に変な悲鳴を上げた。
そして、私には軽く会釈し、デズにはとても丁寧に頭を下げた。
「えっ、シャーガの偽物か?」
私の後ろに乗っていたマルスが小さな声で呟きながら、女性冒険者の行動を見つめる。
「シャーガさんという名前ですか?」
私の問いに、マルスは「はい」と答える。
「いつも冷静なんですが……」
「冷静?」
「うわ~、鱗! つつつるつる。あ~」
興奮状態で話すシャーガさんに、マルスが噴き出した。
「あはは。はい、いつもは冷静なんですよ。ふふっ、今は、そうは見えないかもしれませんが」
そうだね、まったく冷静には見えないね。
「あぁありがとうございました」
興奮状態でデズにお礼を言うシャーガさんに、私も思わず笑ってしまう。
「マルス。話があると言っていたが、何だ? それに、これはどういう状況なんだ?」
マルスに声を掛けた上位冒険者が、彼に視線を向ける。
「あぁ、そうだった。待ってくれ、そっちへ行くから」
マルスはデズから降りると、王都で聞いた話を、カシメ町の上位冒険者達に話した。
私は、彼らが話している間に、デズに水を飲ませ、体をきれいに拭いてあげる。
タオルで拭かれるのが好きなデズは、とても気持ちよさそうに目を細めた。
「それは、カシメ町の冒険者ギルドがまずいという事だな」
話を聞き終わると、今まで無言だった上位冒険者が険しい表情で呟く。
「うん、そうだと思う。それで、お前達は王都に向かう許可を誰にもらった?」
「私達は、イータスよ。マルス達は誰なの?」
「俺達もイータスだ」
デズを前に興奮していたシャーガさんの落ち着いた声に、少し目を見開く。
「さっきとは全然違うな」
私の傍に来たガボの言葉に、私は頷く。
「今の彼女が、いつものシャーガさんなんだろうね」
「そうなのか?」
先ほどのシャーガさんを見ているからか、ガボが不思議そうな表情で私を見る。
「うん、いつも冷静らしいよ」
「いつも?」
「うん」
私の答えに、ガボが納得出来ない様子でシャーガさんを見る。
「確かに今は、とても冷静に話をしているな」
「うん」
カルスさん達が話し合っていると、近くで休憩していた別の冒険者達が、こちらに来た。
「あの~、少しいいですか?」
「はい、なんですか?」
ガボが、冒険者達を見る。
「問題になっているのはカシメ町だけでしょうか?」
「えっ?」
「俺達は、カシム町の冒険者ギルドに所属している上位冒険者です。王都に行きたいと言ったら、たった1日で許可が下りたんです。あの時は、すぐに行けると喜んだんですけど……。カシメ町の話を聞いていると少し不安になってきてしまって……」
どうやら、許可が下りるのが早すぎた事に、疑問が湧いたみたい。
「カシム町の冒険者ギルドからも、冒険者達に早く戻るよう言ってほしいと連絡が来ていると聞いてます」
ガボの説明に、カシム町の上位冒険者達が顔を見合わせる。
「やっぱり、少し違和感があったから、あの時調べればよかったんだな」
「そうだな。すぐに戻るか」
「あぁ、そうしよう」
カシム町の上位冒険者達は、話し合うと、すぐにカシム町へ引き返す事にしたみたい。
「俺も、少し聞きたい事があるんだけどいいか?」
引き返す準備をしようとしたカシム町の上位冒険者達を、ガボが引き留める。
「はい?」
ガボに話しかけた上位冒険者が、彼を見て首を傾げる。
「カシム町の冒険者ギルドで、最近、何か問題が起こっていないか?」
ガボの問いに、彼らは険しい表情をした。。
「冒険者ギルドでは、問題は起きていません」
「冒険者ギルドでは」っという事か、別のところで問題が起こった?
「問題が起こったのは、商業ギルドのほうです。まぁ、問題になった者達を捕まえたのは冒険者ギルドに所属している上位冒険者でしたけど……」
「商業ギルドの問題とは?」
ガボが聞くと、上位冒険者がガボに顔を寄せる。
「魔法陣を組み込んだ道具が、カシム町でひそかに出回ったんです。その事を知った商業ギルドのギルマスが、すぐに売った店を特定させ、営業停止処分にしました。それで終わればよかったんですが、店を調べると、偽の販売許可証が出てきて、その精密さから商業ギルドの職員が関わっているとわかりました。まぁ、すぐに関わった職員が判明して捕まりましたけどね。ただ……」
上位冒険者が言葉をとめると、少し言いづらそうな表情をした。
「……」
ガボが無言で上位冒険者を見ると、彼は小さく息を吐く。
「冒険者ギルドに、捕まった職員の家族がいるんです。少しの間『あの子は騙されてあんな道具の販売許可証を出したんだ』と言っていたのを聞いています。商業ギルドの職員が関わっていたので、今回は冒険者ギルドが調査したんですけど、捕まった職員はどんな道具か知ったうえで販売許可証を偽造していた事が判明しています」
上位冒険者の話を聞き終わると、溜め息がこぼれた。
家族を信じたいという気持ちはわかる。
でも、上位冒険者達をカシム町から遠ざけた事に関わっているなら、完全な逆恨みだね。
「魔法陣を組み込んだ道具はどれくらい出回ったんだ? 全部、回収できたのか?」
「50個くらいですが、全部は見つかっていません」
ガボの問いに、上位冒険者が首を横に振る。
「かなり危険な物だから、今も探し続けているんですけど」
「危険って?」
「攻撃力を上げる道具として売られたんですが、使用しようとすると、周りの魔力を吸収してしまうんです。魔力が急激に減って動けなくなった冒険者が、大怪我を負ったと聞きました」
魔力を吸収されてしまうの?
それは、恐ろしい道具ね。




