第5章 第六部 言葉
第六部 言葉
明け方の光が、明るくなった。
明るくなったのは、空の色が、薄い灰色から、白に、変わったから、だった。
白凪は、観測壕の手前に、立っていた。
立った姿勢の右手は、引き金の構えの位置に、入れたままだった。
入れた右手は、震えていなかった。
久我の双眼鏡の角度が、半度、北寄りに、動いた。
動いた角度の先に、何かが、動いていた。
動いていた何かが、別働かどうかは、まだ、決まっていなかった。
決まる前に、久我が、声を、出した。
「白凪二等兵」
声は、これまでの久我の声と、別だった。
別、というのは、呼ぶ相手が、白凪に、なった、ということだった。
昨日まで、久我は、別働の出現を、鷹見に、報告していた。
今、久我は、白凪に、報告した。
「はい」
「九番正面、距離500、出ました」
「数は」
「八から、十」
白凪は、半拍、置いた。
置いた半拍の中で、数の意味が、引き出しの中で、組み直された。
八から十は、これまでで、最大の数だった。
最大の数の別働が、今、九番正面に、出ていた。
出ているのは、向こうの、最後の試み、だった。
最後の試み、というのは、向こうも、これまでの戦闘を、学習してきた、ということだった。
学習の結果を、最大の数で、試している。
その認識を、白凪は、引き出しに、入れた。
入れる場所は、決まっていた。
決まっていた場所に、置いてから、白凪は、口を、開いた。
「速度は」
「最大速度」
「了解」
白凪は、それだけ答えた。
答えてから、頭の中で、配置の組み合わせを、組んだ。
組み合わせは、ひとつでは、なかった。
いくつかの動きが、勝手に、並んだ。
並んだ動きの中から、薄くなる動きが、出てきた。
薄くなったのは、撃退できない動きだった。
残った動きは、撃退できる動きだった。
撃退できる動きの中で、組み合わせが、絞られた。
絞られた組み合わせは、一つだった。
「鷹見軍曹」
白凪は、本陣の方向に、声を、出した。
「ここだ」
本陣の入口の脇から、鷹見の声が、返ってきた。
「配置、組みました」
「言え」
「久我は、観測継続」
「了解」
「瀬名は、本陣の奥/待機」
「了解」
「笹倉は、副線」
「了解」
「荒瀬軍曹は、前縁壕の前」
白凪は、それだけ言った。
言ってから、本陣の脇の鷹見を、見た。
鷹見は、本陣の入口の脇で、白凪を、見ていた。
見たまま、半拍、置いた。
置いた半拍の中で、鷹見は、配置を、確かめていた。
確かめてから、口を、開いた。
「荒瀬を、前縁壕の前か」
「はい」
「荒瀬は、走れる速度が、戻っていない」
「承知の上です」
「お前が、削る側に、置くか」
白凪は、半拍、置いた。
置いた半拍の中で、答えは、すでに、決まっていた。
「置きます」
白凪は、答えた。
答えた声は、低かった。
低かったが、揺れなかった。
揺れなかったのは、夜のあいだに、九つの言葉が、並んだ、引き出しの中の場所から、出てきた答えだったから、だった。
答えを、鷹見は、聞いた。
聞いてから、頷いた。
頷きは、短かった。
頷いてから、鷹見は、本陣の中の方向に、向き直った。
向き直る前に、白凪を、もう一度、見た。
見た目は、長くはなかった。
長くないが、確かめる目だった。
確かめてから、鷹見は、本陣の中に、動いた。
動く速度は、急がなかった。
荒瀬は、本陣の脇に、立っていた。
立った位置から、白凪の配置の声を、聞いていた。
聞いてから、白凪の方向に、視線を、向けた。
向けた目は、配属の日の荒瀬の目と、別だった。
配属の日の荒瀬の目は、新顔を、確かめる目だった。
今の荒瀬の目は、削る側に、置かれた側の目だった。
白凪は、その目を、受け取った。
受け取ったまま、荒瀬の前に、立った。
「荒瀬軍曹」
「ああ」
「前縁壕の前です」
「分かった」
荒瀬は、それだけ答えた。
答えてから、自分の銃を、肩から、外し直した。
外し直した銃の角度を、確かめてから、白凪の方向に、もう一度、視線を、戻した。
「白凪」
「はい」
「お前、覚えとけ」
「はい」
「お前が、置いた」
「置きました」
白凪は、答えた。
答えた声は、低かった。
荒瀬は、それだけ言った。
言ってから、前縁壕の方向に、動き始めた。
動く速度は、配属の日の荒瀬より、半拍、遅かった。
遅かったのは、走れる速度が、戻っていなかったからだった。
遅い速度のまま、荒瀬は、前縁壕の方向に、進んでいった。
進んでいく背中を、白凪は、見た。
見たまま、口を、開かなかった。
開かないことが、ここでの、見送り方だった。
動きを、白凪は、続けた。
白凪は、観測壕の手前に、戻った。
戻った位置で、銃の構えを、もう一度、確かめた。
確かめた構えは、揺れていなかった。
揺れていない構えの先に、別働の影が、入ってきた。
別働は、すでに、距離400メートルの位置に、来ていた。
数は、八。
いや、九。
久我の声が、続いた。
「九番正面、距離400、九」
「了解」
白凪は、それだけ答えた。
答えてから、引き金の重さを、指先で、確かめた。
重さは、夜のあいだに確かめた重さと、同じだった。
同じ重さの引き金の奥で、頭の中の動きが、組まれた。
組まれた動きは、いくつかだった。
いくつかのうち、白凪の身体が、選んだ動きは、ひとつだった。
選ばれた動きは、最初の二人を、立て続けに、撃つ動きだった。
撃ったあとの、左寄りの二人が、前縁壕の方向に、流れる、と読んだ。
流れる先に、荒瀬が、待っていた。
待っていることが、配置の意味だった。
意味のまま、白凪は、撃った。
最初の発砲音が、観測壕の手前から、出た。
別働の右寄りの一人が、姿勢を、崩した。
崩した姿勢の脇で、白凪は、二発目を、撃った。
二発目は、右寄りの後ろにいた、もう一人に、当たった。
二人が、続けて、倒れた。
倒れた位置の脇で、別働の左寄りの二人が、姿勢を、低くした。
低くした姿勢のまま、二人は、前縁壕の方向に、動き始めた。
動き始めた方向の先には、荒瀬が、待っていた。
前縁壕の前で、荒瀬の発砲音が、出た。
音は、一回。
別働の左寄りの一人が、姿勢を、崩した。
崩した姿勢の脇で、もう一人が、引き金を、引いた。
引き金の音は、荒瀬の方向に、向けて、出た。
出た音の二回目が、荒瀬の肩の方向に、当たった。
荒瀬は、姿勢を、わずかに、崩した。
崩した姿勢のまま、前縁壕の脇に、姿勢を、低くした。
低くした姿勢の左肩の、軍服の色が、暗くなった。
暗くなったが、荒瀬の右手は、引き金から、離れていなかった。
離れていない右手で、荒瀬は、もう一度、引き金を、引いた。
引いた音は、別働の最後の左寄りの一人に、向けて、出た。
出た音は、当たらなかった。
当たらなかった、というのは、別働の動きが、半拍、早かった、ということだった。
半拍、早かった別働の一人は、前縁壕の脇に、入った。
入った瞬間、白凪が、観測壕手前から、射線を、合わせた。
合わせた射線の先に、別働の最後の一人が、入った。
入った瞬間、白凪は、撃った。
別働は、姿勢を、崩した。
崩した姿勢のまま、動かなくなった。
動かなくなった、というのは、死んだ、ということだった。
「鷹見軍曹、別働、五」
久我の声が、続いた。
「距離300、退却の動き、開始」
本陣の中の鷹見の声が、応答した。
「了解」
「白凪、追わなくていい」
「了解」
白凪は、それだけ答えた。
答えてから、引き金から、指を、離さなかった。
離さなかったのは、まだ、確かめることが、あったからだった。
確かめることは、二つだった。
一つは、前縁壕の前の荒瀬。
もう一つは、副線の脇の笹倉。
二つを、白凪は、頭の中の引き出しに、入れた。
入れたまま、双眼鏡の角度を、副線の方向に、振った。
振った先に、笹倉の姿勢が、見えた。
見えた姿勢は、副線の脇に、倒れていた。
倒れていた、というのは、副線の脇で、姿勢を、低く、保てなくなった、ということだった。
保てなくなったのは、撃たれたから、だった。
撃たれた位置は、まだ、見えなかった。
見えないが、瀬名が、すでに、動いていた。
動いている瀬名の手の動きを、白凪は、視界の端で、確かめた。
確かめた動きは、急がなかった。
急がない、というのが、瀬名の止血の動きだった。
動いている、というのは、笹倉が、生きている、ということだった。
生きているまま、止血が、続いていた。
続いている止血を、白凪は、信じた。
信じる、というのが、判断者の動きだった。
動きの中で、白凪は、もう一度、前縁壕の方向に、視線を、振った。
前縁壕の脇の荒瀬は、姿勢を、低くしたまま、動かなかった。
動かないが、引き金は、まだ、握っていた。
握っている右手の指の動きが、わずかに、見えた。
わずかに動いていたのは、引き金から、指を、離さない動きだった。
離さないのは、まだ、別働が、戻ってくる可能性が、あるからだった。
戻ってくる可能性のために、荒瀬は、引き金を、離さなかった。
離さない動きを、白凪は、見届けた。
見届けてから、自分の銃の構えを、外した。
外した瞬間、右手は、震えなかった。
震えなかったのは、構えていれば震えない、というのとは、別だった。
構えを、外したのに、震えなかった。
震えなかったのは、震えが、消えたから、ではなかった。
震えが、別の場所に、移ったから、だった。
移った場所は、引き金の手の重さの、奥だった。
奥に、震えが、ある。
ある震えは、もう、止まらない。
止まらない震えを、白凪は、止めようとは、しなかった。
止めない、というのが、続いていた。
白凪は、観測壕の手前から、動き始めた。
動いた方向は、前縁壕の前だった。
前縁壕の前まで、進んだ。
進んだ先で、荒瀬の脇に、腰を、下ろした。
下ろしながら、荒瀬の左肩の方向を、見た。
左肩の軍服の色は、暗かった。
暗いが、広がっていなかった。
広がっていなかったのは、出血が、止まる側に、入っていた、ということだった。
白凪は、左手で、荒瀬の左肩の脇を、押さえた。
押さえた感触は、いつか、瀬名から渡された手順の、強さだった。
鼓動と、同じ強さ。
強すぎても、弱すぎても、ない。
「肩、当たった」
荒瀬は、低く、言った。
「だが、止まってる」
「了解」
白凪は、それだけ答えた。
答えてから、押さえる手の強さを、変えなかった。
変えなかった手の下で、荒瀬の鼓動が、続いていた。
続いている鼓動の上で、荒瀬は、もう一度、口を、開いた。
「お前、置いた」
「置きました」
「合ってた」
「はい」
白凪は、答えた。
答えた声は、低かった。
荒瀬は、それだけ言った。
言ってから、半拍、目を、閉じた。
閉じた目の脇で、白凪は、押さえる手の強さを、確かめ続けた。
確かめている時間の中で、荒瀬が、もう一度、口を、開いた。
「白凪」
「はい」
「合っても、合わなくても、お前が下したものだ」
白凪は、その言葉を、聞いた。
聞いた瞬間、引き出しの中で、半拍、止まった。
止まったのは、その言葉が、鷹見が、いつか、白凪に、向けて、言った言葉と、同じだったからだった。
同じ言葉が、荒瀬の口から、出てきた。
出てきた言葉を、荒瀬が、白凪に、返した。
返された言葉を、白凪は、受け取った。
「はい」
白凪は、答えた。
答えた声の中に、迷いは、なかった。
迷いがなかったのは、夜のあいだに、すでに、引き受けていた、からだった。
引き受けたものを、もう一度、確かめる、というのが、荒瀬の言葉だった。
確かめた結果を、白凪は、もう一度、口に、出した。
「合っても、合わなくても、俺が、下しました」
白凪は、答えた。
答えた声は、揺れなかった。
荒瀬は、頷かなかった。
頷く代わりに、目を、閉じたままにした。
閉じた目の脇で、白凪は、押さえる手の強さを、続けた。
続けている間、荒瀬の鼓動は、止まらなかった。
止まらなかったのは、生きている、ということだった。
しばらく、白凪は、荒瀬の脇に、いた。
いた時間の中で、瀬名が、副線の方向から、声を、出した。
「白凪二等兵」
「はい」
「荒瀬軍曹の止血、私が、引き継ぎます」
「お願いします」
「笹倉の止血は、止まる側です」
「了解」
「副線の脇に、行ってください」
「分かりました」
白凪は、押さえている手を、外した。
外す前に、瀬名の手が、白凪の手の脇に、入った。
入った瀬名の手は、白凪の手の強さを、そのまま、受け継いだ。
受け継いだ強さの下で、荒瀬の鼓動は、続いた。
続いていたまま、白凪は、手を、外した。
外した手は、震えなかった。
震えない手のまま、白凪は、副線の方向に、進んだ。
副線の脇に、笹倉が、横になっていた。
横になった姿勢の脇に、別の兵が、いた。
別の兵は、九番の中から、駆けつけた、本陣の連絡兵だった。
連絡兵は、止血の補助に、入っていた。
補助の脇に、白凪が、しゃがんだ。
「笹倉」
「白凪、二等兵」
笹倉は、目を、開けたまま、答えた。
答えた声は、低かった。
低いが、震えていなかった。
「副線、止まりました」
「了解」
「後送便、明日の朝、です」
「お前、その便で、行け」
「はい」
笹倉は、それだけ答えた。
答えてから、半拍、口を、閉じた。
閉じた口の脇で、笹倉の右手が、土の上に、置かれていた。
置かれた手は、震えていなかった。
震えていないのは、笹倉が、止血の最中だから、だった。
最中の手は、動かない。
動かない手のまま、笹倉は、もう一度、口を、開いた。
開いた口の端が、薄く、上がった。
上がったが、笑いは、続かなかった。
続かなかったのは、続けるだけの息が、ないからだった。
息のない笑いの脇で、笹倉が、もう一度、白凪を、呼んだ。
「白凪二等兵」
「はい」
「俺の震えも、お前のと、同じ場所、ですか」
白凪は、半拍、置いた。
置いた半拍の中で、答えは、すでに、決まっていた。
決まっていた答えを、白凪は、口に、出した。
「同じ場所、です」
「そうですか」
笹倉は、それだけ答えた。
「そうですか」
もう一度、繰り返した。
繰り返した声は、最初より、低かった。
低い声の脇で、笹倉は、目を、閉じた。
閉じた目の下で、止血は、続いていた。
続いている止血の上で、笹倉は、生きていた。
白凪は、笹倉の脇から、立ち上がった。
立ち上がった方向は、観測壕の手前だった。
手前まで、進んだ。
進む途中で、視界の端に、本陣の入口が、入った。
入った入口の脇に、鷹見が、立っていた。
立った位置から、白凪を、見ていた。
見たまま、何も、言わなかった。
言わない、というのが、確かめた背中の動きだった。
動きを、白凪は、知っていた。
知っているまま、頷きを、返した。
返した頷きを、鷹見は、受け取った。
受け取ってから、本陣の中の方向に、向き直った。
向き直る前に、もう一度、白凪を、見た。
見た目は、長くはなかった。
長くないが、確かめる目だった。
確かめてから、鷹見は、本陣の中に、動いた。
観測壕の手前に、白凪は、戻った。
戻った位置の土の上に、足を、置いた。
置いた足の下の土は、九番の土だった。
九番の土の上に、白凪は、立っていた。
立った位置から、別働の退却した方向を、見た。
方向の先には、何も、いなかった。
いない、というのは、退却が、完了した、ということだった。
完了したが、敵主力の動きは、続いている。
続いている、というのを、白凪は、知っていた。
知っているのは、久我の双眼鏡が、まだ、左寄りの角度に、置かれているからだった。
置かれた角度の先には、まだ、何かが、動いていた。
動いている何かが、いつ、また、出てくるかは、分からなかった。
今夜かもしれなかった。
明日かもしれなかった。
もっと先かもしれなかった。
来る時に、白凪は、動く。
動くために、ここに、立っていた。
立った位置で、白凪の中で、動機の場所の中央の、九つの言葉が、ゆっくり、再生された。
使わなければ、お前以外が、削れる。
選ばなければ、全員が、削れる。
お前だ。
もう、戻らない。
保たせるために、削れる。
自分の選択が、九番の外まで、届く。
削り切るまで、保たせる。
削り切ったら、その時は、その時だ。
ここの誰かを、削る側にも、なる。
九つの言葉が、揃って、並んだ。
並んだ言葉は、同じ方向を、指していた。
指している方向は、白凪自身だった。
白凪自身が、削れる側にいるのと、同時に、誰かを、削る側にも、立つ。
二つは、別の場所だった。
別の場所に、白凪は、両方とも、立っていた。
立っている形は、揺れなかった。
揺れない形の上に、新しい言葉が、置かれた。
置かれる言葉は、これまでとは、別の場所から、出てきた。
別の場所、というのは、九つの言葉の、奥の、奥だった。
奥の、奥から、出てきた言葉は、一つだった。
責任。
九つの言葉が、指していた、方向の、名前だった。
九つの言葉は、すべて、その名前を、指していた。
指していた名前を、白凪は、初めて、自分の中で、組んだ。
組んだ瞬間、九つの言葉は、十になった。
十の言葉が、動機の場所の中央に、整列した。
白凪は、組んだ言葉を、口には、しなかった。
口にしないのは、選んだから、だった。
選んだ理由は、いくつか、あった。
いくつかあったが、どれも、同じことを、指していた。
口にすれば、戻れなくなる。
戻れなくなる場所が、もう、白凪の中に、ない。
ないが、口にしないことを、白凪は、選んだ。
選ぶ、というのが、配属の日から、続いていた、白凪自身の動きだった。
動きは、変わっていなかった。
変わっていないが、選んだ言葉の中身は、変わっていた。
中身は、責任だった。
責任を、白凪は、引き受けた。
引き受けたが、まだ、口には、しなかった。
口にしない、というのが、配属の日の白凪と、どこかで、繋がっている、ということだった。
繋がっているのは、もう、わずかだった。
わずかだが、ゼロでは、なかった。
ゼロになる日は、来る。
来る日まで、白凪は、保たせる。
保たせるために、生きる。
生きる、というのは、自分を、使う、ということだった。
使う、というのは、削る、ということだった。
削るのは、自分自身と、ここの誰か、両方だった。
両方を、引き受ける。
引き受けるのが、責任だった。
責任は、言葉になった。
言葉になったが、まだ、口には、しなかった。
責任、と呼ぶ言葉を、白凪は、自分の中に、置いただけだった。
置いた言葉は、動機の場所の、中央の、一番上に、あった。
一番上の言葉が、下の九つを、束ねていた。
束ねている、というのが、白凪の、今、立っている場所だった。
立っている場所から、見える方向が、一つ、あった。
見える方向には、まだ、戦闘の続きが、あった。
続きが、いつ来るかは、分からなかった。
今夜かもしれないし、明日かもしれないし、もっと先かもしれなかった。
来る時に、白凪は、動く。
動くために、ここに、いる。




