表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
感応の召喚者  作者: 小此木悟
序章:召喚
4/7

異世界召喚者


 「ダンストンさんが俺と同じ世界から来たって?」


 「ああ、そうだ。お前が起きた時に日本語がどうとか言っているのが聞こえたのでな。日本のことは知っていたし、俺はアメリカの出身だ。それに、俺の知っている限り、日本にはプロサッカーリーグはないと思ったのだが…。そりゃ、向こうの世界だって色々変わっているだろうしな。そうなると、信乃は俺よりも後の時代からやってきたのか」


 最後の方は何を言っているのか、声が小さくなって聞き取ることができなかったが、ダンストンの口からアメリカという単語が出てきたことに信乃は動揺した。


 「アメリカですって?それなのに何でここにいるんですか?」


 「お前と同じように召喚されたんだよ。まあ、大分経緯は違うがな。詳しくは後で話そう。俺も向こうの世界がどうなったのか知りたいもの。とりあえず、今は俺と一緒に来てくれ。」


 そう言って話が打ち切られ、ダンストンが先に進んでいってしまったため、信乃は慌ててその後を追いかけることにした。


 そして、随分と開けた場所に到着した。


 建物の外に出たので天井はない。周囲では、様々な武器を持った兵士のような者たちが素振りをしたり、打ち合いをしていた。訓練場といった感じだ。

 

 ダンストンの登場に気づいた者たちは、彼に向かって敬礼をしている。尊敬の眼差しを向けている人もいるように見受けられる。ダンストンは結構偉い人物なのだろう。


 それでも、こんな所に連れてくるなんてダンストンは一体何を考えているのだろうか。シーラに対する無礼への罰を与えるためかもしれないといった物騒な考えが信乃の頭をよぎり、訓練場へと足を踏み入れるのが及び腰になる。


 「何を怖がっているんだ?」


 信乃が不審がっていることをダンストンは察したのであろう。


 「さっきの罰を与えるってんじゃないんですか?」


 「そんなことは心配するな。シーラ様は気にしておられないと言っただろう。中に入るぞ」


 罰を与えられるわけじゃないことがわかり、信乃は胸を撫で下ろす。


 罰を与えられた場合、一方的に嬲られるのは勘弁してもらいため抵抗するつもりであるが、筋肉の塊ともいえるダンストンに太刀打ちできるわけがないからだ。

 

 「シーラ様は、信乃に特別な力があるように仰っていただろう。無論、俺もそう考えている。異世界人は特別な存在だからな。それを証明してやろう」


 そう言って、木剣の素振りをしているダンストンに引けを取らない体格をした男に声をかけ、信乃の前に連れてこさせる。


 「信乃、この男と勝負をしてみろ。ルールはこの円の中から外に押し出すか、膝より上を地面につけさせるかだ。投げるのは良いが、殴ったりするのは反則とする。まあ、日本でいう相撲だな」


 こんな大男と相撲を取らせるなんて、やっぱり罰を与える気なのじゃないかと信乃は思った。


 訓練と称した罰を与えることは、よくある手口である。


 信乃がこんなことを考えている間にダンストンは、兵士から受け取った木剣で半径3m程の円を地面に描いていた。


 「試合を始める前に言っておくがな、この小僧は召喚者だ。そうはいっても、まだまだ子供だ。優秀なるアーベル国の兵士が負けることはないと思うのだがな。もし負けた場合は訓練場を100週してもらおう」


 ダンストンが悪戯っぽく言った瞬間、目の前の男に緊張した面持ちが表れたと同時に周囲からの視線が信乃に一斉に注がれる。


 そりゃ、異世界から召喚された者なんて珍しいのだから、注目されることは仕方ないことだと思う。しかし、自分の対戦相手である男は何を狽えているのか。大人と子供くらいの体格差があるのだから、自分に勝つことは簡単なのだろうに。


 「両者とも準備はいいな…。それじゃあ、少し距離をとって向かい合え。それでは、はじめっ!」


 信乃と兵士は、描かれた円の中に1m程の距離をとって向かい合う。


 ダンストンの合図とともに、大柄な兵士が姿勢を低くする。兵士の足に光が集まっているのが信乃には見えたが、それを気にしている余裕はない。兵士の巨体が肩を突き出し、信乃に突進してきた。


 その迫力に思わず怯みそうになる信乃であったが、掴まれたら終わりなので横にステップして回避する。

 

 随分余裕をもって回避できたなと信乃は感じていた。事実、信乃が回避を行動に移してから幾分か遅れて、その信乃のいた場所に兵士が突っ込んでいった。そして、兵士が隙だらけに見えたため、信乃は背後に回るとお返しとばかりに兵士に向かって全体重を乗せたタックルを繰り出した。

 

 背中からもろに突き出された兵士は、円から遥か先まで吹き飛ばされていた。10m程は飛んだのであろうか。慌ててその兵士を確認するが、一向に動く気配はない。気絶したのだろう。


 周囲にいたものたちが唖然とした顔を浮かべているが、その現象を引き起こした信乃自身が一番驚いた顔を浮かべている。


 「勝者、信乃!誰かそこに寝転がっているあいつを介抱してやれ。目が覚めたら、訓練場を100週させることを忘れないようにな」


 ダンストンが他の兵士に告げると、信乃の方に笑いながら歩みよってくる。


 「どうだ、驚いただろう。俺も最初の時は信じられなかったさ。口で説明しても良かったんだが、まずは体験してもらおうと思ってな」


 そして、ダンストンが、なぜこのような出来事が起こったのかを説明してくれた。

 

 それによると、この世界にいる者は魔力を持っており、身体を動かす際に、魔力が筋力の補助をするということ。そして、これは異世界からやってきた者にも適用されるらしい。理由はわからないが、この世界に来た時点で信乃は魔力を持つことになったようだ。また、魔力で補助されているといっても、この世界における一般的な男性の力は、魔力で補助されていない信乃がいた世界の平均と変わらないらしい。そのため、単純な筋力では異世界人である信乃の方が強いということになるのだという。そして、魔力が与えてくれる補助は純粋な筋力で発揮できる力を、おおよそ2倍にするそうだ。

 

 つまり、単純な筋力で倍の力を持っており、そこに通常の倍の補正が魔力によってかかるため、最低でも元の世界の4倍の力を発揮できるらしい。もちろん、魔力による補正は個人差が大きいことと、体内に魔力を込めることによって、更なる補正が得られるため一概には言えないのだが。何れにせよ、常人の4倍という力を持っている信乃が、この世界において規格外の力を持っているのは間違いないのない。


 純粋な筋力が低いなら、こちらの世界の人間がもっと細い体をしていてもよいと思うのだが、周囲の兵士たちは屈強と言える体格をしている。それなのに、信乃よりも筋力が低いことは、元々の身体の作りが違うのだろうから気にするなということだった。


 ついでに、ダンストンはこの世界の言語についても教えてくれた。何でも言葉に込められた意味に微かな魔力が乗っているらしく、それが翻訳機的な働きをしてくれるらしいのだ。そのため、この世界には1つの言語しか存在していないという。


 また、いつまでもこの世界だとか、あちらの世界だとかいうのは、面倒くさいので今自分たちがいる世界のことを「ニアース」、元いた世界を「地球」と呼ぼうという提案を受け、それを了承した。


 「わかったか。さっきのあいつはな、この国の兵士の中でもかなり上位の力を持っているものだ。それをあっさりと倒した信乃はすでに戦う力を持っているんだよ。何の訓練もなしに、そんな力を身につけているのだから、訓練すればより強大な力を身につけることができる」


 「力があるからって、戦えっていうのは違うんじゃないかと思いますけど」


 「すぐに戦えと言っているわけじゃないさ。それに、俺だって望んでもいないのに、命をかけて戦わせるなんて間違っていると思うからな」


 ダンストンは身を竦めながら答える。一瞬遠い目をしたような気がしたが、何だったのだろう。


 「それと、ニアースには魔術もある。シーラ様が言ったように、召喚者は皆高い魔力を持っており、魔術師としても強力な存在となれるのさ。そして、高い魔力を持った者の中に、稀にギフトと呼ばれる特別な力を持って生まれる者もいる。但し、異世界からやってきた者は、皆このギフトを持っている」


 ダンストンから感じ取った影はなりを潜め、先程の調子に戻っている。

 召喚者であるダンストンがここにいるということは、シーラから依頼されたように戦いに身をおいているということだろう。それが何か関係しているのか。


 どうも、信乃は他人の感情の機微に聡く、それを考えすぎてしまうところがある。


 「信乃がどんなギフトを持っているのかは、まだわからないが、それは自分自身のストロングポイントでもあるし、ウィークポイントになることもある。だから、その内容は基本的には秘密にしておくんだぞ。俺の場合は他人に知られても全く問題のないものだから、特別に見せてやろう」


 周囲の温度が上がったかと思うと、ダンストンの身体から光が漏れ出していた。


 「俺のギフトは、自分の持っている魔力の全てを自分の身体と身につけている物の強化に注ぎ込めるというものさ。他のやつでもやろうと思えば可能なのだが、通常、過剰な身体強化には基盤となる体自体が耐えられない。だが、俺の場合はどれだけ強化しようとも体には負担がかからない」


 そう言うや否や突風が巻き起こり、気が付くとダンストンが目の前から消えていた。


 次の瞬間、どこから取ってきたのか、手には1mは超えているだろう鉄製と見える大盾が抱えられていた。反対の手には木剣を携えている。おもむろに大盾を放り投げ、それに向かって木剣を振りぬいたのか…、速過ぎてよく見えなかったのだが、大盾は真っ二つに切り裂かれていた。


 周囲を見守っていた兵士たちから歓声があがる。信乃自身も、木で鉄を切り裂くという常識外れの剣技と自身の目で捉えることが出来なかったダンストンの動きに口を開けるしかなかった。


 「これで、大体全力の3割といったところだな。普通の奴からしたら、こんな力反則でしかないだろう。だがな、こんな俺よりも強い奴なんて幾らでもいるんだぜ。シーラ様が言ったように、ニアースじゃあ人間は弱いからな。人間はいつ死んだっておかしくないし、日本と違って命の値段は安いんだ。だから、お前も戦いの訓練くらいはしておけ。簡単に死にたくないだろう。訓練は俺がつけてやる。これでも、この国では最強の一角らしいからな」


 ダンストンが全く驕りのない目で信乃を見つめている。これ程の力を持ってしても敵わない者が大勢いるのが信じられないが、ダンストンの目を見る限り、それが真実なのだろう。


 そして、俺が面倒を見ると言ったダンストンの瞳の奥には優しさが感じられた。信乃は、この思いを無碍にするほど、薄情な人間ではない。訓練ぐらいは受けてみようと思う。


 「さて、伝えたいことは伝えたし、帰るとするか。行くぞ」


 「行くってどこに行くんですか?」


 「俺の家だが。どうせ、信乃は飯を食う金もないだろうし、寝る場所もないだろうしな。召喚者の先輩として、それぐらい用意してやるのが男ってもんだろう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ