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ハズレスキル『土壌感知』で転生した俺に、死にかけの辺境村を任されました  作者: ヲワ・おわり


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第8話 ミリアという農業者

本作は全70話で完結予定です。

毎日5話ずつ、07:10/12:10/18:10/20:10/22:10 に予約投稿しています。

続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

翌朝、まだ薄暗いうちに畑へ行くと、ミリアはもう来ていた。


「遅い」


腰に手を当てて、彼女はそう言った。俺より先に来て、待っていたらしい。本気で農業をやっている人間の朝は、早い。


「すみません。これでも早起きしたつもりでした」


「農家の朝は、もっと早いんです」


ミリアは、自分が手を入れている畑を見せてくれた。麦を植えた畝が並んでいる。ただ、明らかに育ちが悪い。葉が黄ばみ、丈が伸びていない。


「麦の後に、また麦を植えてます。土がおかしいのは、分かってる。でも――どうすればいいか、分からない」


正直な人だ、と思った。分からないことを、分からないと言える。それは、農業をやる上で一番大事な素質だった。


「ミリアさん。なぜ、この麦は育たないんだと思いますか」


「土が、痩せてるから」


「じゃあ、なぜ土は痩せたんですか」


ミリアが、言葉に詰まった。


「同じ場所に、同じ麦を、何年も植え続けたからです」俺はしゃがんで、土をすくった。「作物は、土から栄養を吸って育ちます。麦が欲しがる栄養は、決まってる。同じ麦ばかり植えれば、その栄養だけが、どんどん減っていく。やがて、いくら植えても育たなくなる。これを連作障害といいます」


「れんさく……」


「違う作物を順番に植えれば、土の栄養が偏らない。豆を植えれば、逆に土に栄養を足してくれる作物もある。土を休ませながら使えば、痩せない。それを、何年もやらなかった。だから、こうなった」


ミリアは、自分の畑をじっと見ていた。何かが、腑に落ちた顔だった。


「……なんで、そんなことが分かるんですか」


「前の仕事で、ずっとこういう土を見てきたので」


ミリアは怪訝な顔をしたが、深くは聞かなかった。代わりに、ぽつりと言った。


「両親も、こうやって悩んでたのかな」


俺は手を止めた。


「ご両親は」


「……もう、いません。不作が続いた頃に、二人とも体を壊して。食べる物が、足りなくて」


それだけだった。ミリアは、それ以上は言わなかった。乾いた言い方だった。乾かさなければ、口に出せない種類の話だった。


「そうですか」


俺も、それ以上は言わなかった。慰めの言葉は、こういうとき、たいてい役に立たない。前世で、何度もそれを学んだ。


しばらく、二人で黙って畑を見ていた。


「ミリアさん」


「なんですか」


「農業指導を、受けてみませんか。連作をやめて、土を戻すところから。時間はかかります。でも、必ず変わります」


ミリアは、しばらく考えてから、こちらを見た。


「……やってみます。でも、効果がなければ、それまでですからね」


「それで、いいです」


俺はうなずいた。それで、十分だった。



ミリアが帰った後、俺は一人で畑に残った。ウォルトが「先に戻ります」と気を利かせてくれたのは、ありがたかった。


一人で土を触っていると、前世と今が、混ざる瞬間がある。


東北の、あの農家のじいさんの顔が浮かんだ。手を尽くしても変わらなかった、たくさんの農村の顔も。


だが、ミリアの顔は、少し違った。


彼女は、まだ諦めていない。


その一点だけが、前世とは決定的に違っていた。

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