第69話 辺境へ広がる農法
辺境伯府からの、正式な辞令が、届いた。
「辺境農業改良使・レイム・ダールム」
ウォルトと、一緒に、読んだ。
「辺境東部の、農業改良を、担当してほしい。ダールム村での、実績を、基に――か」
ダールム村での、二年間が、一つの、肩書きに、なった。荒れた土地を、立て直す。それが、正式な、俺の、仕事になった。
◇
俺は、ある作業を、始めた。
ダールム村での、二年分の経験を、「他の村でも、使える、手引き」として、整理し直す。
「この記録を、見れば、誰でも、同じことが、できるように、書く」
土壌の、見方。堆肥の、作り方。輪作の、順番。水路の、直し方。すべてを、順を追って、誰が読んでも、分かるように。
「私も、手伝います」
アナが、言った。記録係の、アナだ。字が、一番きれいで、誰よりも、記録を、読み込んでいる。
「助かります」
俺は、頭を下げた。
◇
ミリアには、特別な、一冊を、渡した。
二年分の、すべてが、入った、農業記録帳の、完全版。
「重いですよ、これ」
ミリアが、両手で、抱えて、言った。
「いい意味で、重いんです」
俺は、笑った。
「それを、持っていけば、どこでも、農業を、始められます。困ったら、開いてください。答えの、半分は、そこに、あります」
「半分?」
「残りの、半分は――あなたが、現場で、見つけるものです。土は、村ごとに、違うので」
ミリアが、記録帳を、ぎゅっと、抱きしめた。
◇
俺は、改めて、村を、見渡した。
アナが、記録を、引き継ぐ。トムが、農業を、覚え始めた。センが、農具を、扱い、土を、触り始めた。ラナが、農地を、見守っている。
俺が、いなくなっても――ここは、続く。
それは、もう、確信に、変わっていた。一人の人間に、頼った村は、もろい。でも、この村は、もう、大勢の手で、回っている。
◇
東の集落は、廃村寸前だという。
今年の収穫が、ほぼ、ゼロ。二年前の、ダールムと、同じだ。
だが――今の、ダールム村を、見れば。
廃村寸前から、変われることは、もう、証明された。まぐれでは、ない。やり方が、ある。だから、また、同じことを、すればいい。土を、調べて、原因を、見つけて、一つずつ、直していく。
前世で、できなかったことを。ここで、続けられる。
それは、不安ではなく――楽しみだった。
◇
ミリアの、旅立ちは、翌朝だった。
夕方、ラナが、農地で、農作業を、していた。
老いた手で、ゆっくりと。でも、確実に。鍬を、振っていた。
「明日、見送りに、行きますか」
俺が、聞くと、ラナは、手を止めずに、言った。
「当然だろう」
「そうですね」
俺は、農地を、一周してから、宿舎に、戻った。
明日で、また、一つ、区切りが、つく。




