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ハズレスキル『土壌感知』で転生した俺に、死にかけの辺境村を任されました  作者: ヲワ・おわり


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第67話 ラナの手

祭りの音が、遠くで、聞こえていた。


夜の農地は、静かだった。月が、出ている。水路の、水音が、絶え間なく、響いていた。


ラナと、俺は、農地の端に、並んで、立っていた。



「前に……話すって、言っていたことを。今、言う」


ラナが、口を、開いた。


「聞かせて、ください」


ラナは、月明かりの畑を、見つめながら、ゆっくりと、話し始めた。


「お前は……最初から、変だった。村に来て、すぐに、土を、触って。何かを、確認して。誰にも、信じてもらえないのに、諦めなかった」


その声は、低かった。


「俺は、思っていた。どうせ、こいつも、すぐに、帰る、と。貴族の三男坊が、こんな、死にかけの村で、長く、もつわけがない。そう、思っていた」



ラナが、俺の方を、向いた。


「でも――お前は、帰らなかった」


その目は、まっすぐ、俺を、見ていた。


「農業が、失敗しそうな時も。病害虫で、畑が、枯れた時も。グライが、村ごと、買い取ろうとした時も。ヴィンスが、管轄を、奪おうとした時も。――俺は、何度も、思った。『今度こそ、こいつは、去るだろう』と」


ラナの声が、少し、震えた。


「でも、お前は……いつも、農地に、いた。土に、手を、当てていた。何度、見ても、お前は、ここに、いた」



しばらく、沈黙が、あった。


水路の音だけが、聞こえていた。


そして、ラナが、言った。


「……あんた、ここに、来て、よかったな」


その瞬間。


ラナの手が、俺の手を、握った。


老いた、農業で、節くれ立った、荒れた手だった。五十年、土と、生きてきた手。何度も、裏切られて、何度も、諦めて、それでも、土を、離さなかった手。


その手が、俺の手を、強く、握っていた。


俺は――返す言葉を、失った。



胸の奥が、熱くなった。目の縁が、潤むのを、感じた。


前世で、できなかったこと。


変えられなかった、農村。離農していった、農家の、背中。「先生が、もう少し、早く来てくれたら」と、言われた言葉。二十二年間、積み重ねてきた、無力感と、後悔。最後の日も、診断の、途中で、土の上に、倒れた。


あの、すべての、やりきれなさが――。


今、この、握られた手の中に、収まった気が、した。


ここで、できた。


前世で、できなかったことが――この村で、できた。



俺は、何も、言わなかった。


言葉は、いらなかった。


ただ、ラナの手を、握り返した。


それだけが、答えだった。



祭りの音が、遠くで、している。


ラナが、先に、農地から、戻っていった。その背中は、来た時より、少しだけ、軽く見えた。


俺は、しばらく、農地の端に、立っていた。


水路の音が、聞こえる。星が、出ている。風が、麦の切り株を、渡っていく。


ここが、俺の、場所だ。


初めて――迷いなく、そう、思えた。

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