第63話 ミリアの改善案
収穫祭の、翌日。
ミリアが、農業記録帳を、手に、俺のところへ、来た。
「農業改良について……提案が、あります」
いつになく、改まった、口調だった。
「聞かせて、ください」
◇
ミリアは、記録帳を、開いた。
「区画Dの、土壌は、他の三つと、性質が、違います。だから――区画Dには、専用の作物を、作付けする方が、いいと思います。大豆か、蕎麦を」
「なぜ、そう思うんですか」
「土壌感知の結果を、毎月、記録帳で、追っていたら……区画Dだけ、他と違う、回復の仕方を、しているんです。栄養の、戻り方が、違う。この土には、この土に、合った作物が、あるはずです」
俺は、内心、驚いた。それは、教えたことの、応用ではなかった。記録を、自分で、分析して、導き出した、独自の、観察だった。
◇
俺は、その場で、区画Dの土を、診断し直した。
膝をついて、土に、手を当てる。じっくりと、確かめる。
「……確かに」
ミリアの、言う通りだった。区画Dの土は、他とは、違う性質を、持っていた。これまで、四区画を、同じように、扱っていたが――Dだけは、別の作物の方が、合う。
「なぜ、気づいたんですか」
「毎月の記録を、重ねたら、見えてきました」
ミリアは、少し、不思議そうに、言った。
「レイム様は……気づいて、いなかったんですか?」
「……俺は、全体を、見ていたから」
俺は、正直に、認めた。
「区画ごとの、細かい差を、見落としていました。あなたの方が、よく、見ていた」
◇
「やってみましょう」
俺は、言った。
「次の春まきで、区画Dに、大豆を試す。俺も、一緒に、計画します」
ミリアの顔が、ぱっと、明るくなった。
「一緒に……いいんですか」
「あなたの、提案です。だから、一緒に、作る。指導じゃ、ない」
それは、「教える」関係から、「共に作る」関係への、変化だった。ミリアは、もう、弟子では、なかった。
◇
ミリアが、帰り際に、言った。
「隣村の農業、見てきても、いいですか」
「どういう、意味ですか」
「ここで、学んだことが、他の土地でも、通じるか。確かめて、みたいんです」
俺は、しばらく、考えた。
「今すぐじゃ、なくていい。ここの、二年目の記録が、全部、終わってから」
「……はい」
ミリアが、答えた。
その「はい」は――いつもの「はい」とは、少し、違っていた。何か、決意のような、響きが、こもっていた。
◇
ミリアが、去った後。
俺は、一人で、区画Dの土を、もう一度、触った。
弟子が、俺の見落としに、気づいた。俺が、この村に、持ってきたものを、ミリアは、より細かく、発展させ始めている。
弟子が、師匠を、超え始めた。
それは、誇らしいことだった。
そして同時に――俺の仕事が、終わりに、近づいている、合図でも、あった。




