第62話 センが信じることにした
収穫祭の、前日。
準備で、村中が、慌ただしい中、センが、農地の端に、しゃがんでいた。
土を、触っている。
「何を、してるんですか」
俺が、聞くと、センは、手を止めずに、言った。
「土壌感知って……どうやるんですか」
「スキルが、ないと、できません。俺の、スキルだから」
「スキルなしで、土を、確かめる方法は、ないんですか」
◇
俺は、センの隣に、膝をついた。
「あります。スキルがなくても、土を、触って、色を見て、臭いを、嗅げば――ある程度は、分かる」
センと一緒に、土を、握った。
「去年の土と、今年の土の、違いが、分かりますか」
センは、両手で、土を、揉んだ。じっと、感触を、確かめている。
「……少し、柔らかい。去年より」
「正解です」
俺は、言った。
「堆肥が、効いて、土の中に、隙間が、できた。だから、柔らかい。根が、伸びやすくなる。よく、分かりましたね」
センの目が、少し、輝いた。
◇
しばらく、土を触ってから、センが、ぽつりと、言った。
「俺は……大人を、信用しないって、決めてた」
俺は、黙って、聞いた。
「それは、なぜ」
「大人は、いつも、正しいことを、言う。でも、何も、変えなかった。『なんとかなる』『そのうち良くなる』って、言うだけで――村は、死んでいった」
センは、土を、見つめたまま、続けた。
「でも、あんたは……言って、変えた。土を。畑を。本当に、変えた」
◇
センが、顔を、上げた。
「あんたを、信用することに、した。それだけです」
俺は、しばらく、言葉が、出なかった。
子供が、心を、開くのは、何より、難しい。一度、裏切られた子供なら、なおさらだ。そのセンが、自分から、「信用する」と、言った。
「……ありがとう」
俺は、言った。
センが、照れたように、目を、逸らした。
「お礼を、言うようなこと、じゃないです」
「俺にとっては」俺は、答えた。「一番、大事なことです」
◇
センが、刈り取られた畑を、見ながら、小さな声で、言った。
「農業……やってみたいかも、しれない」
恥ずかしそうだった。
「それは、いいですね」
「……まだ、分かんないです」
「分からないうちに、始めると、だんだん、分かってきます」
センは、土を、もう一度、握った。
◇
「農業、続けても、いいですか」
「もちろんです」
「ただし」俺は、言った。「条件が、一つ、あります」
「なんですか」
「字を、覚えること。記録帳が、読めないと、農業は、続けられないので」
センが、嫌そうな顔を、した。
「……字は、嫌いです」
「俺も、最初は、嫌でした」
俺は、笑った。
「でも、農業のためだと、思えば、続きます」
センは、しばらく、黙ってから、言った。
「……やります」




