第60話 外部の対立が消えた村
二年目の、秋収穫の、初日。
明るい、秋の朝だった。住民が、全員、農地に、集まっていた。
去年と、違うのは――誰も、不安そうな顔を、していないことだった。
老人が、去年と同じ、鎌を、手にしている。だが、その扱いは、もう、慣れていた。麦の、刈り方を、知っている手だった。
◇
ミリアが、前に出た。
去年は、ラナが、最初の一刈りで、合図を、した。今年は、違った。
「区画Aから、始めます!」
ミリアの、よく通る声が、響いた。
俺は、何も、指示しなかった。ミリアが、自分で、収穫の、号令を、かけた。それが、去年と、最も、大きな違いだった。
全員が、一斉に、刈り始めた。
◇
収穫の様子を、見ながら、俺は、観察していた。
「麦の株が、去年より、密だ。穂も、重い。選別種子の、効果が、はっきり、出ている」
膝をついて、刈り取られた麦を、手に取る。粒の、詰まり方が、違う。種を、選び続けてきた、成果だった。
アナが、すぐ横で、記録帳に、書き込んでいた。区画ごとの、刈り取り量を、一つずつ、丁寧に。
◇
昼時、全員で、休憩を、取った。
パンと、野菜のスープと、豆。畑の脇に、腰を下ろして、みんなで、食べた。
俺は、ふと、気づいた。
この食事の、食材の、半分以上が――自分たちで、作ったものだ。
去年は、麦粥だけの、貧しい食事だった。それが、今は、パンがあり、野菜があり、豆がある。笑い声が、あった。
豊かに、なっていた。土が、人を、養っていた。
◇
夕方、ウォルトが、聞いてきた。
「次は……どこに、行くんですか」
俺は、刈り取られた麦の、山を、見ながら、答えた。
「まだ、ここに、います。この収穫が、全部、終わって、二年目の記録を、全部、まとめたら――その次のことを、考えます」
「……その後は?」
「辺境に、荒れた土地は、たくさん、ある。でも、今は」
俺は、言った。
「ここが、終わってから、です」
◇
辺境伯が去った後の、ダールム村は、少し、静かだった。
嵐の、後みたいに。
でも、嵐の後の空は、晴れている。
ウォルトが、もう一度、「次は、どこへ」と、聞いた気が、した。
俺は、しばらく、答えなかった。
この村を、まだ、離れる気には、なれなかった。
まだ、やることが、ある。
もう少し――ここに、いたい。




