第59話 二年目の秋収穫・準備
二年目の、秋収穫が、近づいていた。
「今年の収穫は、私が、計画します」
ミリアが、そう言って、農業記録帳を、広げた。
去年のデータを、もとに、区画ごとの、収穫の順番、刈った麦の乾燥方法、選別の手順を、自分で、組み立てていた。一年前は、俺の後ろを、ついて回っていた少女が、今は、収穫全体を、設計している。
俺は、その計画を、確認した。
「いいです。よく、考えられています。そのまま、やってください」
直すところは、なかった。
◇
アナも、準備を、進めていた。
「今年の収穫記録は、もっと、細かく、取ります。区画ごとの、重さと、品質の評価も」
「どこで、それを、学んだんですか」
「記録帳を、読み返していたら……去年のデータが、ちょっと、荒くて。これだと、比べにくいなって」
去年の自分の記録を、読み返して、足りないところに、気づく。それは、誰にも、言われていない、自律的な、改善だった。
「いい気づきです」
俺は、素直に、感心した。
◇
農具置き場では、刃を、研ぐ音が、していた。
村の若者が、鎌を、一本ずつ、丁寧に、研いでいる。横で、住民が、感慨深そうに、言った。
「去年は、もっと、ボロボロの農具で、やっていたのにな」
土も、人も、道具も。一年で、すべてが、底上げされていた。
◇
俺は、最後に、全区画の、土壌診断を、した。
膝をつき、土に、手を当てる。じっくりと、土の声を、聞く。
「……今年の土は、去年より、全区画で、改善している」
特に、区画Bと、Cが、良かった。
「『良好』から、『優良』に、上がった。これなら――去年を、超える」
確信が、あった。土が、そう、言っていた。
◇
ふと、視線を、向けると。
センが、農具研ぎを、手伝っていた。
黙々と、鎌を、研いでいる。手つきは、慣れていた。
「セン。それ、いつから、手伝ってるんですか」
センは、手を止めずに、答えた。
「……先月から」
それだけ、言って、また、刃に、向き直った。
あれほど、心を、閉ざしていたセンが、いつの間にか、村の仕事に、自分から、加わっていた。俺は、声を、かけすぎなかった。焦らなくて、いい。センは、センの速さで、この村に、根を張り始めている。
◇
収穫の、二日前。
ラナが、俺に、言った。
「今年は……ちゃんと、眠れそうか」
去年の、収穫前夜。俺は、一晩中、農地を、歩き回っていた。眠れなかった。
「……寝ます」
俺は、答えた。
「そうか」
ラナが、少し、笑って、言った。
「去年より、俺も、眠れそうだ」
その一言の、重さが――五十年分、あった。




