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ハズレスキル『土壌感知』で転生した俺に、死にかけの辺境村を任されました  作者: ヲワ・おわり


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第52話 農地の記憶

辺境伯は、四つの区画を、順番に、歩いた。


「ここは、どう変えたのか」


具体的な、質問だった。表面を、なでるだけの視察では、なかった。


「三つです」俺は、答えた。「一つ、堆肥を入れて、土に栄養を、戻しました。二つ、毎年、植えるものを、変える。輪作です。同じ作物を、続けると、土が、痩せるので。三つ、種を、選別する。いい種だけを、残して、まく」


短く、分かりやすく、答えた。長い説明は、要らなかった。



俺は、農業記録帳を、辺境伯に、渡した。


「一年前の、土の状態と、今の状態。両方、記録してあります。実際の畑と、見比べてください」


辺境伯の、文書官が、記録帳を、受け取り、丁寧に、ページを、めくっていった。


「……この記録は、誰が、書いたのか」


「最初は、私が。途中からは、アナという、村の子供が、引き継ぎました」


文書官が、顔を、上げた。


「子供が?」


「字を、教えましたので」



そこへ、ヴィンスが、割って入った。


「父上。この程度の農地を、大規模な、商業農場にすれば、この、数倍の収益が、出ます。小作人を、入れて、効率的に運営すれば――」


辺境伯は、ヴィンスを、見もせずに、俺に、言った。


「続けてくれ」


ヴィンスの言葉は、宙に、浮いた。


俺は、視察を、続けた。ヴィンスの介入に、こちらから、取り合う必要は、なかった。判断するのは、辺境伯だ。



水路の前で、辺境伯が、また、足を止めた。


「この水路を、手で、直したのか」


「はい。住民、全員で。冬の、三ヶ月、かけて」


「魔法なしで」


「なしで」


辺境伯が、初めて、俺の顔を、まっすぐ、見た。


「……どうやって、計画を、立てた。素人が、水路を直すのは、簡単じゃない。勾配を、間違えれば、水は、流れない」


俺は、説明した。水の、勾配の取り方。どこを、どれだけ掘るか。石を、どう積めば、崩れないか。前世の知識を、この世界の、道具に、合わせて。


辺境伯は、黙って、聞いていた。その目には、はっきりと、技術への、興味があった。



視察が、終わった。


辺境伯は、記録帳を、閉じて、一言、言った。


「……ふむ」


表情は、変わらない。だが、視察の間、辺境伯は、何度も、記録帳の数字に、戻って、確認していた。


ヴィンスが、急くように、聞いた。


「如何でしょうか、父上」


「今夜、じっくり、読む」


辺境伯は、それだけ、答えた。



辺境伯が、村長の家へ、引き取った後。


俺は、農地の端に、立っていた。


ウォルトが、隣に来た。


「どう、思いますか」


俺は、少し、考えてから、答えた。


「記録帳を、今夜読む、と言った。それで、十分だ。読めば、分かる」


「……レイム様は、平静ですね」


平静じゃない、と、俺は、思った。


ただ――できることは、もう、全部、やった。

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