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ハズレスキル『土壌感知』で転生した俺に、死にかけの辺境村を任されました  作者: ヲワ・おわり


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第50話 視察の準備と、静かな覚悟

辺境伯の、視察まで、あと、わずかだった。


「何か、特別なことを、しますか」


ミリアが、聞いてきた。


「しません」


俺は、答えた。


「いつも通りで、いいです」


ミリアが、意外そうな顔をした。


「特別に、見せようとしたものは、すぐに、見抜かれます。取り繕った畑は、土を触れば、分かる。経験のある人間ほど、そうです。だから――いつもの、ダールムを、見てもらう。それが、一番、強い」



準備として、やったのは、一つだけ。


農業記録帳を、一年分、通して、読めるように、整理した。


アナが、積み上がった記録帳を、見て、改めて、言った。


「これ、全部……記録が、あるんですね。毎日の」


「これが、証拠書類に、なります」


俺は、言った。


「言葉は、いくらでも、飾れる。でも、毎日の記録は、飾れない。一日も、欠かさず、つけてきた。それが、この村の、本当の姿です」



住民にも、説明した。


「辺境伯が来たら、質問されたことに、正直に、答えてください。聞かれていないことは、無理に、言わなくていい。ただし――嘘だけは、つかないでください」


ラナが、落ち着かない様子で、言った。


「辺境伯に、話したことなんて……ないな」


緊張しているのが、分かった。村で、最も、肝の据わった女が、だ。


「ラナさんが、話すことは、何でも、重みが、あります」


俺は、言った。


「二十年、この土地を、見てきた人の言葉です。どんな、報告書より、重い」


ラナは、しばらく、黙ってから、小さく、言った。


「……そうか」


そして、少し、背筋を、伸ばした。



ミリアが、ぽつりと、言った。


「『いつも通り』って……それが、一番、難しいですね」


「そうですね」


俺は、笑った。


「でも、皆さんは、もう、十分、いつも通りに、農業を、やれています。それを、見せるだけです」



その夜、俺は、一人、机に向かいながら、思っていた。


成果は、出ている。住民は、変わった。農業は、続いている。


これ以上、できることは、もう、ない。あとは、見てもらうだけだ。


前世では――一度も、こんな場まで、来られなかった。


俺の仕事は、いつも、途中で、終わった。畑を、見てもらう前に、評価される前に、次の現場へ、回された。最後の日も、診断の、途中だった。


でも、ここでは、違う。


最後まで、やり遂げた村を、見てもらえる。



辺境伯が来る、前夜。


俺は、一人で、農地を、歩いた。


水路の、水音が、聞こえる。麦の種が、地面の中で、眠っている。空には、星が、出ていた。


この場所は、確かに、変わった。


俺は――ここが、好きだと、初めて、はっきり、思った。

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