第48話 初めての市場出荷
保存しておいた、麦と、乾燥野菜と、豆を、市場に、出すことにした。
ダールム村の農産物が、初めて、外で、売られる日だった。
「ちゃんと、売れるでしょうか」
ミリアが、荷を、何度も、確かめている。緊張しているのが、分かった。
「品質は、保証できます。あとは、買い手が、それを、分かってくれるかどうか」
◇
出荷には、ウォルトと、ミリアと、村の若者が二人、行くことにした。
最寄りの、グリム市場までは、馬車で、一日。俺は、村に、残った。農地の管理は、止められない。それに――もう、俺が、ついていかなくても、彼らだけで、できる。それを、信じたかった。
「行ってきます」
ミリアが、緊張した顔で、馬車に乗った。
◇
二日後、馬車が、戻ってきた。
ミリアが、馬車から、飛び降りて、駆けてきた。
「全部、売れました! しかも、予想より、高値で!」
息を、弾ませて、言った。
「品質が、いいって、分かったみたいで……買い取ってくれる商人が、いたんです。『この豆は、どこの産だ』って、聞かれて。『ダールム村だ』って、答えました」
ダールム村の名が、品質と一緒に、市場で、口にされた。それは、大きな、一歩だった。
◇
俺は、収益の、使い道を、住民に、説明した。
「まず、村の、運営費。次に、来年の、農業の資材。種や、道具を、買い足す。そして――残りは、辺境伯への、年貢に、充てます」
老人の一人が、目を、見開いた。
「年貢を……払えるのか。俺たちが」
長く、年貢を、滞納し、廃村の話まで、出ていた村だった。
「払える日が、来るとは……思わなかった」
老人の、声が、詰まった。施しを受ける側だった村が、自分の力で、義務を、果たせるようになった。それは、誇りの、回復だった。
◇
俺は、辺境伯への、報告書に、追記した。
初めての、市場出荷額。市場での、品質評価。そして、年貢を、納められる見通し。
ヴィンスへの、対抗材料として――いや、それ以上に、この村が、農業で、自立し始めた、確かな証拠として。
◇
ミリアが、市場から戻って、最初に、言ったのは、こうだった。
「グリムって……大きいですね」
「初めて、でしたか」
「ダールムから、出たことが、ほとんどなくて……」
ミリアは、少し、照れたように、言った。
外の世界を、知ること。それは、自分の村の、価値を、知ることでもある。
「次も、行きますか」
「行きます!」
即答だった。
その目は、村の外へと、開かれ始めていた。




