第47話 危機を共有する
俺は、住民を、集会場に集めた。
「皆さんに、話さなければ、ならないことが、あります」
全員の顔が、こちらを向いた。俺は、隠さず、すべてを、話した。
ヴィンスが、ダールム分領の管理権を、求めて、辺境伯に、正式申請したこと。辺境伯が、判断を、保留していること。俺が、視察を、請願したこと。
ざわめきが、広がった。
◇
老人の一人が、苦々しく、言った。
「……また、貴族の都合で、振り回されるのか」
その声には、古い怒りが、にじんでいた。二十年前、貴族の争いで、村が壊された。その記憶が、よみがえったのだ。
「レイム様が、去ることに、なるのか」
別の住民が、不安そうに、聞いた。
「どうすれば、いいんだ」
◇
俺は、落ち着いて、説明した。
「辺境伯に、視察に来ていただけるよう、お願いしています。来てくだされば、皆さんが、証言してくださるなら――この村が、どう変わったかを、数字と、皆さんの言葉で、伝えられる。それが、一番、強い」
そこで、俺は、言葉を、切った。
「ただし。皆さんが、証言するかどうかは、皆さんが、決めることです。俺は、強制しません。巻き込まれたくなければ、それでも、構いません」
しばらく、沈黙が、あった。
◇
その沈黙を、破ったのは、ラナだった。
「言わせてもらう」
低い、しかし、はっきりとした声だった。
「この土地が、どう変わったか。死にかけていた畑が、どうなったか。俺が、証言する」
続いて、ミリアが、立った。
「私も。農業が、これから先も、続いていくこと。その、根拠を、言えます」
老人たちが、次々と、声を上げた。
「俺も、言う」
「ああ、俺もだ」
そして――端のほうで、センが、ぽつりと、言った。
「……俺も」
あれほど、大人を、信じなかったセンが。
◇
最後に、村長が、立ち上がった。
かつて、俺を、最も疑っていた男だった。「一年で、何ができる」と、突き放した男だった。
その村長が、言った。
「……俺も、言う」
声が、震えていた。
「この村が、変わったことは――俺が、一番、分かっている。誰よりも、長く、ここの畑が、死んでいくのを、見てきたんだ。だから、俺が、言う」
俺は、何も、言わなかった。
この団結を、壊す言葉は、何一つ、いらなかった。
◇
集会の後、ウォルトが、ぽつりと、言った。
「……これは、強い」
「強い?」
「みんなが、証言するということは、辺境伯が来た時、数字だけじゃなく、人間を、見ることになる。生きた村を、見る。それは――強いです」
俺は、住民の力を、借りているんじゃない。
住民が、自分の意思で、立ち上がっている。
それが、一番、強いのだ。




