第46話 管轄権移転の正式申請
数日後、辺境伯の、公式の使者が、村に来た。
ヴィンスの騎士とは、違った。落ち着いた、文官だった。彼は、辺境伯からの通達を、読み上げた。
「ヴィンス・オルドラントより、ダールム分領の、管理権移転の申請が、出された。辺境伯は、現時点では、判断を、保留している。レイム・オルドラントには、弁明の、機会を、設ける」
それだけ、告げると、文官は、返礼を待たずに、帰っていった。
◇
俺は、その通達を、何度か、読み返した。
ウォルトが、不安そうに、聞いた。
「保留……ですか。却下では、なく」
「むしろ、いい兆候です」
俺は、言った。
「もし、俺の評価が、ゼロなら、辺境伯は、即座に、ヴィンスへ、管理権を、渡していた。でも、保留した。つまり――ダールムで成果が出ていることを、辺境伯は、認識している。だから、即決できなかった」
「成果を、知っている……」
「そして、弁明の機会が、あるなら」俺は、続けた。「数字と、証人で、対応できる。これは、土俵に、上がれるということです」
◇
だが、ウォルトの顔は、晴れなかった。
「気になるのは……辺境伯が、ヴィンス様の申請を、完全には、却下しなかった点です」
「というと」
「グライと、ヴィンス様が、連動しているとすれば、辺境伯への、働きかけも、並行して、行われている可能性がある。商人ギルドの力で、辺境伯に、何か、吹き込んでいるかも、しれません」
鋭い、指摘だった。敵は、一人では、ないかもしれない。
「だとしても、やることは、変わりません」
俺は、答えた。
◇
辺境伯への、返答を、どうするか。
選択肢は、二つ、あった。一つは、「弁明の場を、求める」。辺境伯のもとへ、出向いて、言葉で、訴える。もう一つは――。
「視察を、求めます」
俺は、決めた。
「言葉で、説明するより、現場を、見てもらう。土と、水路と、住民を、直接、見てもらえば、どんな弁明より、確実です。農業は、目で見れば、分かる」
ウォルトが、うなずいた。
「言葉より、現場、ですか」
「俺の、得意な土俵は、そこです」
◇
俺は、辺境伯への、請願書を、書いた。
「ダールム村の、現状を、直接、ご覧いただきたい。数字だけでなく、土地と、住民を、見ていただければ、必ず、ご判断の、材料になります」
書き終えて、使者に、託した。
◇
請願書を送った後、ミリアが、俺の顔を、覗き込んだ。
「何か……大事なことが、あったんですか。さっきから、難しい顔をしてます」
俺は、話すことにした。
全部。ヴィンスの申請。辺境伯の保留。視察の請願。隠さずに。
ミリアは、聞き終わって、少し、黙った。
そして、静かに、聞いた。
「住民に……言いますか」
「言います」
俺は、答えた。
「それが、次に、やることです」




