第42話 鍛冶師との関係
夏の収穫で、改善した鎌が、本領を発揮した。
同じ人数で、去年より、三割多い量を、処理できた。刃の角度を変えただけで、これだけ違う。住民たちも、もう、誰も、農具の改善を、疑わなかった。
その評判を聞きつけて、鍛冶師が、自分から、村にやってきた。
「もっと、農具を作りたい。あんたの村の畑を、見に来ていいか」
◇
鍛冶師は、農地を、ゆっくりと、見て回った。
実際に、住民が鎌を使う様子を、じっと観察している。
「……なるほど。こういう、使い方か。麦を、この高さで刈るから、あの角度が、効くわけだ」
道具が、現場で、どう使われるか。それを見て、初めて、腑に落ちたらしい。
「この鎌、ここを、もう少し改善できます」
俺が言うと、鍛冶師が、すぐに、返してきた。
「それなら、素材は、こっちの鉄がいい。粘りがあるから、薄くしても、折れない」
専門知識同士が、噛み合う。俺の「農業の理屈」と、鍛冶師の「鉄の理屈」。二つが、合わさって、より良い道具になっていく。いい時間だった。
◇
そのやり取りを、ウォルトが、横で見ていた。
ふと、ウォルトが、言った。
「そういえば、今日は、区画Cの潅水が、必要ですね。昨日、土が、乾いていたので」
ミリアが、ぴたりと、動きを止めた。
「……ウォルトさん。今、農業用語、使いましたよね。潅水、って」
ウォルトが、自分の言葉に、気づいて、照れた。
「あ……気がついたら、覚えてました」
護衛として来たはずの男が、いつの間にか、畑の土の乾き具合を、気にするようになっていた。村が、彼を、染めていた。
◇
帰り際、鍛冶師が、商談を持ちかけてきた。
「農具を、継続的に、仕入れたい。あんたの村にな。代わりに、代金の一部を、農産物で、払ってもらえないか。麦でも、野菜でもいい」
ダールム村と、外の世界との、最初の取引だった。
「ありがたい話です。お願いします」
俺は、頭を下げた。村が、自分の力で、外と繋がり始めた。施しでも、年貢でもない。対等な、取引だった。
◇
馬に荷を積みながら、鍛冶師が、ふと、言った。
「そういえば、最寄りの街でも、あんたの村の話が、出てるぞ」
「村の、話?」
「ああ。『廃村寸前だったのに、変わった』ってな。水路を直して、収穫が倍以上になった村が、ある、と」
俺には、意外だった。
ここで、やっていることが、外に、届いているとは、思っていなかった。




