第41話 夏野菜と新しい課題
ヴィンスの動きは、気がかりだった。だが、農業は、待ってくれない。
秋麦を収穫した区画Dに、俺は、夏野菜を植えることにした。
「カブと、豆と、葉野菜。この三つを、組み合わせて植えます」
ミリアが、首をかしげた。
「ばらばらに植えるんですか。畝を、分けないで?」
「わざと、混ぜて植えるんです。同じ土地に、複数の作物を植えると、お互いに、助け合う効果がある」
「助け合う……?」
◇
「豆は、土に、栄養を足してくれる。根に、特別な働きがあって、空気中の栄養を、土に取り込む」
俺は、豆の苗を、手に取った。
「葉野菜は、地面を、葉っぱで覆う。すると、土から、水分が逃げにくくなる。日差しで、土が乾きすぎるのを、防ぐ」
ミリアが、目を、見開いた。
「……植物が、助け合うんですか。お互いに」
「うまく組み合わせれば、です。何と何が合うか。それを、知っているかどうか」
ミリアは、植えたばかりの畝を、見つめた。植物同士が、見えないところで、助け合っている。その考え方が、新鮮だったらしい。
◇
その日の夜、俺は、ウォルトと、ヴィンスの件を、整理した。
「グライの買収提案と、ヴィンスの管理権移転の申し出。タイミングが、合いすぎています」
ウォルトが、難しい顔で、うなずいた。
「連動している、と思います。グライが探りを入れて、その情報が、ヴィンス様に流れている」
「だとしても」
俺は、静かに言った。
「俺にできるのは、農業の成果を、積み上げることだけです。焦って動けば、足元をすくわれる。数字で、答えを出す。それしかない」
◇
翌日も、子供たちが、植え付けを手伝った。
トムとアナが、豆の種を、土に埋めていく。
そして――センが、少し離れたところから、近づいてきた。
「俺も……少しなら」
俺は、内心、驚いた。あれほど、心を閉ざし、「どうせ大人は出ていく」と、距離を取っていたセンが、自分から、手伝うと言った。
「助かります。じゃあ、ここの豆を、お願いします」
センは、黙って、種を、土に埋め始めた。
◇
夕方、収穫した麦で、パンを焼く方法を、ミリアに教えた。
これまで、村では、麦を粥にして食べていた。だが、パンが焼ければ、保存もきくし、何より、食事が、豊かになる。
焼きたてのパンを、老人が、一口食べて、目を細めた。
「……こんなパン、街でしか、食べたことなかった」
◇
植え付けが終わった、夕方。
センが、ぽつりと、聞いてきた。
「この豆……食べられるように、なるのは、いつですか」
「三ヶ月後ですね」
「三ヶ月か……」
センは、そう言って、植えたばかりの畝を、見ていた。三ヶ月後のことを、考えている。
それが、俺には、意外だった。
ここに、残るつもりに、なっているんだな――と、思った。




