第4話 四つの畑を診る
本作は全70話で完結予定です。
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ラナの案内で、俺は村の農地を回った。
ダールム村の畑は、大きく四つの区画に分かれていた。ラナはそれぞれの前で足を止め、何も言わずに俺を見た。お前は何が分かる、と問うように。
一つ目の区画。膝をついて、土を触る。
「ここが一番悪い。十年以上、同じ麦を植え続けてますね。窒素がほとんど残ってない。このままだと、何を植えても育たない」
「……当たっとる」
ラナが小さく言った。
二つ目の区画。
「ここはまだ間に合う。連作は七年くらい。土に少し力が残ってます。手を入れれば、戻せます」
「当たっとる」
三つ目の区画。土に手を当てた瞬間、俺は思わず顔を上げた。
「ここは――いい土だ。本当は、村で一番いい畑だったんじゃないですか」
ラナの目が、わずかに揺れた。
「……三十年前は、この畑が村を養っとった」
「水路の近くですね。水が来なくなって、それで荒れた。でも土そのものは死んでない。水さえ戻れば、ここはまた一番の畑になります」
四つ目の区画は、少し山に近かった。
「ここは水はけが良すぎる。乾きやすい。でも逆に言えば、水を持たせる工夫をすれば使える。豆を植えるといい畑です」
俺は立ち上がって、手についた土を払った。頭の中で、問題が整理されていく。連作障害。水路の崩壊による水不足。土の中の有機物の消耗。そして、種の質の低下。四つだ。全部、原因がはっきりしている。
「ラナさん。畑が、こうなったのはいつからですか」
「二十年前からだ。少しずつな」ラナは枯れた畝を見つめた。「最初の五年は、誰も気にしなかった。今年は不作だった、来年は持ち直すだろう、とな。気づいた頃には、もう手遅れだった」
「昔は、若い農家もいたんでしょう」
「おった。何人もな」ラナの声が、低くなった。「不作が続いて、一人、また一人と村を出ていった。出ていけなかった者は……飢えて、死んだ。あの頃に親をなくした子もおる」
俺は黙って聞いた。責める質問はしない。それは前世で、何度も自分に言い聞かせたことだった。農家を追い詰めたのは、農家自身ではない。
「全部、知っている問題です」
俺はそう言った。ラナが顔を上げる。
「俺の前にいた世界にも、同じことが起きた村が、いくつもありました。土が痩せて、人が減って、それでも残った人がいた村が。だから、やり方は分かってます。順番通りにやれば、必ず変わる。急ぐ必要はない。ただ、やるだけです」
ラナは、長いこと何も言わなかった。
二十年分の諦めが、その沈黙の中にあった。だがその奥で、何かが、ほんの少しだけ動いた気がした。
ついて回っていたウォルトが、感心したように口を開いた。
「農業の診断というのは、こんなに細かいものなんですね。私はただの枯れた畑にしか見えませんでした」
「見方を知れば、畑はいくらでも喋りますよ」
俺は三つ目の区画――かつて村で一番だったという畑を、もう一度見た。崩れた水路の跡が、その先に続いている。
「直せるのか」
ラナが、ぽつりと聞いた。
直せます。答えは、もう出ていた。だが俺はすぐには言わず、水路の跡を見つめてから、静かに答えた。
「まず、土から始めます。水路は、その後です」
ラナは、うん、と一つうなずいた。
それだけだった。でも、十分だった。




