表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハズレスキル『土壌感知』で転生した俺に、死にかけの辺境村を任されました  作者: ヲワ・おわり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/20

第3話 村に来た、土を知る男

本作は全70話で完結予定です。

毎日5話ずつ、07:10/12:10/18:10/20:10/22:10 に予約投稿しています。

続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

村に入ると、人の気配が逃げていった。


家の前にいた老人が、俺たちを見るなり戸の奥へ消える。井戸端にいた女が、桶を抱えて足早に去る。歓迎されていない。それは分かりきっていた。よそ者の貴族など、この村にとっては「また何か奪いに来た者」でしかない。


そんな中で、たった一人、逃げない人間がいた。


村はずれの畑で、腰の曲がった老婆が、黙々と土を打っていた。鍬を振る手つきは、若い者よりよほど確かだった。


――この人だ。


俺は馬を降りた。ウォルトが先に進み出て、声を張る。


「レイム・オルドラント様が、ダールム分領の管理者として着任された。村の者は――」


「またお偉いさんかい」


老婆は振り返りもせずに言った。


「どうせ、すぐ帰るんじゃろ。今までの連中と、同じようにな」


声に棘はなかった。ただ、長い年月をかけて固まった諦めが、そこにあった。ウォルトが言葉に詰まる。


俺はウォルトの肩に手を置いて、前に出た。そして老婆の返事を待たずに、畑に膝をついた。


土に、手のひらを当てる。


その瞬間、感覚が指先から流れ込んできた。乾き具合、水の含み方、栄養の偏り、土の中の小さな命の気配。土壌感知。前世の知識が、その感覚に意味を与えていく。


「……酸性に傾いてますね。窒素が足りない。同じ作物を、十年以上続けて植えてる。土の中の栄養が、すっかり偏ってます」


老婆の鍬が、止まった。


「雨だけに頼って、水の流れが安定してない。だから乾く年は一気に枯れる。このまま、あと二年か三年も同じことを続ければ――この畑は、本当に何も育たなくなります」


しんとした。


風が、枯れた畝の上を撫でていく。


老婆が、ゆっくりと振り返った。皺に埋もれた顔の中で、目だけが、妙に若かった。その目が、まっすぐに俺を見ていた。


「……あんた」


声が、少しかすれていた。


「土を触っただけで、そこまで分かるのか」


「分かります。これが、俺の仕事なので」


「仕事」


老婆は、その言葉を確かめるように繰り返した。それから、鍬を地面に突き立てて、腰を伸ばした。


「わしはラナだ。この村で、一番長く生きてる。一番長く、この土を見てきた」


「レイムです。よろしくお願いします、ラナさん」


俺が頭を下げると、ラナは奇妙なものを見るような顔をした。貴族が、農婦に頭を下げる。この世界では、ありえない光景なのだろう。


「あんた、変な貴族だな」


「よく言われます」


ラナはふん、と鼻を鳴らした。だが、その目から、最初の冷たさは消えていた。


「水路はな」ラナがぽつりと言った。「二十年前から、壊れたままだ。直そうとした者は、誰もおらん」


「水路ですか」


「川から水を引いてた。それが崩れて、それきりだ。あれがあった頃は、この畑はもっと――」


ラナは言いかけて、口をつぐんだ。昔の話をしても仕方ない、とでも言うように。


俺は崩れた畝の向こう、村の奥に目をやった。水路があったという方角だ。土を触ったときから、地面の下を流れる水の気配を、かすかに感じていた。水脈は、まだ生きている。


やることは、見えていた。土。水。種。順番にやればいい。急がず、確実に。


「ラナさん」


「なんだ」


「この村の畑を、全部見せてもらえませんか。一枚残らず」


ラナは、しばらく俺の顔を見つめていた。


そして、ぽつりと言った。


「……来い。全部、見せてやる」


それが、俺とラナの、最初の約束だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ