第39話 第一回収穫祭
本作は全70話で完結予定です。
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村の広場に、収穫したものが、並べられた。
石畳の空き地に、麦の束、野菜、保存食。長いこと、使われていなかった広場に、人が集まり、煙が立ち、笑い声が、響いていた。
老人たちが、感慨深そうに、言った。
「こんな収穫祭は……十年ぶりだ」
「いや、もっとかもしれん。ここまでの収穫は、な」
◇
収穫した麦で焼いたパンが、並んだ。
この村で、麦から作った、初めてのパンだった。野菜のスープ。焼いた芋。どれも、湯気を立てている。
「これ、全部……村で、作ったものだ」
老人の一人が、パンを手に取って、しみじみと言った。
「買ったものじゃ、ない。施しでも、ない。自分たちで、作ったものだ」
その手が、少し、震えていた。
◇
子供たちは、走り回っていた。
トムが、麦のパンを、頬張りながら、叫んだ。
「おいしい! 麦って、こんなになるんだ!」
アナは、パンを両手で持って、じっと見つめていた。
「私が、肥料をあげた畑の、麦で作ったパンを……食べてる」
そう言って、目を潤ませた。土に名前の板を立て、芽に話しかけていたアナにとって、それは、特別なパンだった。
少し離れたところで、センが、黙ってパンを食べていた。
俺が見ていると、センは、小さく、言った。
「……おいしい」
初めて、聞く言葉だった。あれほど、心を閉ざしていたセンの、最初の感情だった。
◇
ミリアは、広場の端に、座っていた。
俺は、その横に、腰を下ろした。同じ方向を、向いて。
ミリアが、ぽつりと言った。
「親に……食べさせたかった」
泣いては、いなかった。でも、その目は、潤んでいた。
俺は、何も、言わなかった。言葉は、いらなかった。ただ、同じパンを、同じ場所で、食べていた。
◇
賑わう広場を、眺めながら、俺は、思った。
これを届けるために、前世で農業の仕事をしてきた――と言ったら、嘘になる。あの頃は、ただ、目の前の仕事を、こなしていただけだ。
でも。
こういう場面を、見るために、俺は、土と、向き合ってきたのかもしれない。
笑い声。湯気。子供の足音。麦の匂い。
ここにいる理由が、分かった気が、した。
◇
収穫祭の、翌日。
グライが、約束通り、やってきた。
答えを、聞きに来た顔だった。
俺は、農業記録帳を持って、彼と、向き合った。




