第38話 大麦収穫
本作は全70話で完結予定です。
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夜明けとともに、全員が、農地に集まった。
老人も、子供も、来ていた。誰もが、改善した鎌を、手にしている。空気が、張りつめていた。期待と、緊張と、そのどちらでもない、何かで。
ラナが、前に出た。
麦の前に立ち、しばらく、穂を見つめてから、低い声で言った。
「さあ、やるか」
そして、最初の一刈りを、した。
鎌が、麦の根元を、すっと、切った。きれいな音だった。束になった麦が、ラナの腕に、倒れ込む。
それが、合図だった。
◇
全員が、一斉に、刈り始めた。
改善した鎌は、軽い力で、麦の根元を、きれいに切っていく。あちこちで、声が上がった。
「速い!」
「去年と、全然違う! こんなに楽なのか!」
老人も、子供も、夢中で刈っていた。村全体が、生き生きと、動いていた。荒れた畑に、初めて来た日の、あの沈んだ空気は、どこにもなかった。
刈った麦を、束にして、積んでいく。山は、見る間に、高くなっていった。
◇
刈り終えた麦を、束にして、計量した。
数えながら、俺は、ある事実に、気づいた。
「区画Bだけで……去年の、全農地の収穫量を、超えている」
改善した一区画だけで、去年の村全体の収穫を、上回っていた。
すべての計量が、終わった。俺は、住民の前で、数字を、読み上げた。
「合計収穫量は、去年の、二・三倍です」
しんとした。
老人の一人が、ゆっくりと、繰り返した。
「二・三倍……」
しばらく、誰も、何も言わなかった。歓声では、なかった。みんなが、その数字を、必死で、飲み込もうとしていた。長く、諦めの底にいた人間には、その数字が、大きすぎたのだ。
◇
やがて、老人が、一人、ぽつりと言った。
「……ちゃんと、できた」
その声が、震えていた。
「ちゃんと、できたよ……」
それから、泣き始める者が、出た。肩を震わせ、麦の束に、顔をうずめる者もいた。
ミリアは、空を、見上げていた。
「お父さん……お母さん。見えてますか」
その目から、静かに、涙が、こぼれていた。
俺は、何も、言わなかった。
アナが、刈ったばかりの麦を、両手で抱えて、言った。
「麦って……本当に、きれいな色だね」
◇
収穫が終わると、村長が、ウォルトに言った。
「この数字、本物か、確認してくれ」
ウォルトが、答えた。
「はい。私も、計量に、立ち会いました。正確です」
村長が、俺を、見た。
その目が、少し、潤んでいた。
「……ご苦労、だったな」
それだけの言葉だったが、俺には、十分だった。




