第36話 農具の改善と鍛冶師
本作は全70話で完結予定です。
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収穫の前に、俺は、村の鎌を、一通り確認した。
そして、気づいた。
「この鎌、刃の角度が、合っていない」
ミリアが、不思議そうな顔をした。
「角度、ですか。鎌は、鎌でしょう」
「麦を刈るのに、向いていない角度なんです。これだと、力が逃げる。刈るたびに、余計な力がいる。一日刈り続けたら、疲れ方が、全然違う」
俺は、鎌を手に取って、軽く振ってみせた。
「改善できます。鍛冶師に、相談したい」
◇
最寄りの街まで、ウォルトと二人で、出かけた。
鍛冶屋の主人は、中年の、無骨な男だった。俺が農具の改善を頼むと、最初は、面倒くさそうな顔をした。
「刃の角度を、これくらい変えてほしいんです。今より、寝かせる方向に」
俺は、地面に、図を描いた。
「この角度にすれば、同じ力で、一・三倍の速さで、麦を刈れる計算です。試しに、一本、作ってもらえますか」
鍛冶師が、眉を寄せた。
「……それは、農具の話ですか。武器の話ですか」
「農具です」
「そんな細けえ農具の話、初めて聞いたぞ」
◇
鍛冶師は、ぶつぶつ言いながらも、その場で、試作を一本、打ってくれた。腕は、確かだった。
俺は、できあがった鎌で、店先の藁を、試し刈りした。
「……もう五度、寝かせてほしい。それと、この部分の厚みを、少し落としてください。重さが、ここに来ると、振りが、鈍る」
鍛冶師が、手を止めて、俺を、まじまじと見た。
「……お客さん。あんた、農家なのか、武器職人なのか、どっちなんだ」
横で、ウォルトが、小声で言った。
「農具の形を、一度単位で、指定してる……すごいな」
◇
改善した鎌を持って、村に戻った。
ミリアに、鍛冶師とのやり取りを話すと、目を丸くした。
「なんで、農具の形まで、知ってるんですか。角度とか、厚みとか」
「前の仕事で、覚えたんです」
ミリアは、少し、考える顔をした。
「前の仕事……どんな、仕事だったんですか」
俺は、すぐには、答えなかった。前世の話を、どこまで、できるものか。
「……いろんな畑を、見て回る仕事です。土と、道具と、人を」
ミリアは、それ以上は、聞かなかった。でも、その目には、俺の「前の仕事」への、小さな好奇心が、灯っていた。
◇
改善した鎌が、村に行き渡った翌日。
ミリアが、試しに、麦の端を、刈ってみた。
「……速い。全然、速い」
何度か、振ってみて、信じられないという顔をした。
「なんで、今まで、誰も、これをしなかったんですか」
「知らなければ、できない。それだけのことです」
ミリアは、刈ったばかりの麦を、手に取った。
「分かれば、変えられる、か」
そう呟いて、もう一度、鎌を振った。




