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ハズレスキル『土壌感知』で転生した俺に、死にかけの辺境村を任されました  作者: ヲワ・おわり


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35/70

第35話 麦が育っている数字

本作は全70話で完結予定です。

毎日5話ずつ、07:10/12:10/18:10/20:10/22:10 に予約投稿しています。

続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

朝の畑で、俺は、麦の草丈を、測っていた。


ミリアが、農業記録帳を手に、隣でしゃがんでいる。一本一本、丁寧に、数字を読み上げていく。


「区画B……ここは、改善した区画です。草丈、平均で、これくらい」


ミリアが、棒に刻んだ目盛りを、読み上げた。


「区画A、比較のために、去年と同じやり方で育てた区画……こっちは、これくらい」


二つの数字を、並べて、見せた。


「三割以上、違いますね」


ミリアの声が、わずかに、上ずった。


「この差は、計算通り――いや、計算以上です」


俺は、うなずいた。堆肥を入れ、土の状態を整えた区画は、根の張りが違う。それが、草丈に、はっきりと出ていた。



その数字を、俺は、住民にも見せた。


「去年の、この時期の草丈より、二割、高い。記録に、残っています」


ミリアが、去年の農業記録帳を、開いて見せた。今では、村に、記録を残す習慣が、根づいていた。


「このペースで育てば、収穫量は、大幅に増えます」


老人の一人が、記録帳を、手に取った。


俺が言ったから信じる、ではなく、自分の目で、去年の数字と、今年の麦を、見比べていた。しばらく、ページをめくって、それから、ぽつりと言った。


「……ほんとだ。去年は、こんなに、なかった」



ラナが、麦の前に、立っていた。


長いこと、黙って、穂のつき始めた麦を、見つめていた。やがて、低い声で、言った。


「……去年とは、明らかに違う。これは、分かる」


その一言で、住民の間に、ある空気が、広がった。「本当に、変わったのかもしれない」――疑いではなく、確信に近いものが。


俺は、それを、急がせなかった。数字は、嘘をつかない。秋まで育てば、もっと、はっきりする。



その日の夕方、ウォルトが、俺のところへ来た。


声を、少し落として、言った。


「ヴィンス様から、また、連絡がありました」


俺は、手を止めた。


「ダールムの近況を……かなり、詳しく、聞いてきます。畑のことも、住民のことも、グライが来たことも。何か、動こうとしている気が、します」


ウォルトの顔には、迷いが、あった。ヴィンスへの報告と、俺への気持ちの間で、揺れているのが、分かった。


「引き続き、正直に、報告してください」


俺は、静かに言った。


「成果が出ていれば、それが、答えになります。隠すことは、何もない」


ウォルトは、ほっとしたように、うなずいた。



ウォルトが去った後、俺は、もう一度、麦の草丈を、測った。


このペースなら、収穫量は、去年の二倍を、超えるかもしれない。


それだけの数字があれば、グライに、答えられる。


ヴィンスのことは……秋が来てから、考えれば、間に合う。


たぶん。

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