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ハズレスキル『土壌感知』で転生した俺に、死にかけの辺境村を任されました  作者: ヲワ・おわり


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32/70

第32話 グライの論理を分析する

本作は全70話で完結予定です。

毎日5話ずつ、07:10/12:10/18:10/20:10/22:10 に予約投稿しています。

続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

その夜、俺は、グライの提案を、じっくりと考えた。


感情で、嫌だと言うのは簡単だ。だが、それでは住民を説得できない。商人の論理には、商人の論理で――いや、農業の論理で、向き合わなければならない。


商業農場化とは、何か。


効率を求めれば、必ず、単一作物の大量生産になる。一番儲かる作物を、広い土地に、ひたすら植える。だが、それは、連作障害そのものだ。十年、十五年もすれば、土は痩せ、何も育たなくなる。


そして、もう一つ。


商業農場で働く農民は、ただの労働者になる。言われた作業をするだけで、なぜそうするのかを、知らなくてもいい。すると、農業の知識が、次の世代に、伝わらなくなる。土が痩せても、誰も直し方を知らない。


短期では、儲かる。だが、長期では――土地も、人も、痩せていく。



翌朝、俺は、ミリアに、その分析を話した。


「グライの提案を、農業の目で見ると、何が問題か分かりますか」


ミリアは、しばらく考えてから、ゆっくりと言った。


「……最初の何年かは、よくなる。でも、長い目で見ると――土地が、死ぬ。それと、農業を分かる人が、いなくなる。そういうことですか」


「その通りです」


「じゃあ」ミリアの目に、力がこもった。「断る理由が、できましたね。ちゃんとした理由が」



俺は、その分析を、住民にも伝えることにした。


ただし、「だから断れ」とは言わなかった。グライの提案のメリットも、デメリットも、両方、正直に伝えた。


「三年分の生活費は、本当に魅力的です。それは、嘘じゃない。でも、農地を売れば、もう二度と、自分たちの農業は、できなくなる。短い安心か、長い未来か。決めるのは、皆さんです」


聞いていた村長が、ぽつりと言った。


「……三年分の生活費というのは、正直、魅力だ」


俺は、否定しなかった。


「分かります」


「街に行けば、飢える心配はない。ここで農業を続けて、もし、また不作になったら……今度こそ、終わりだ」


「そうですね」


俺は、村長を責めなかった。諦めの底にいた人間にとって、確実な安心が、何より重い。それは、当然のことだった。


「だから、秋の収穫を、見てください。改善した畑が、本当に変わったのかどうか。数字で、はっきりさせます。それを見てから、もう一度、考えてください」


村長は、難しい顔のまま、うなずいた。



説明会が終わると、ミリアが、俺を引き留めた。


「住民、揺れてますね。村長まで、あんなふうに言うなんて」


「揺れて当然です」


「本当に、秋の収穫で、判断できるんですか。もし、思ったほど穫れなかったら」


「できます」


「根拠は」


「区画Bの麦の、育つ速さを、見ていますか。去年の記録より、明らかに速い。このペースなら、収穫量は、はっきり差が出る」


ミリアは、少し、目を細めた。


その目には、不安の中に、小さな期待が、芽生え始めていた。

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