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ハズレスキル『土壌感知』で転生した俺に、死にかけの辺境村を任されました  作者: ヲワ・おわり


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31/70

第31話 グライという男

本作は全70話で完結予定です。

毎日5話ずつ、07:10/12:10/18:10/20:10/22:10 に予約投稿しています。

続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

商人は、翌朝、やってきた。


グライ、と名乗った。四十代の半ばだろう。清潔な商人の服を着て、人当たりのいい笑みを浮かべている。だが、その目は、笑っていなかった。値踏みする目だった。


「ダールム村の農業が、変わったと聞きましてね。本当かどうか、この目で確かめに来たんです」


いきなり、買収の話は持ち出さなかった。まずは、農地を見せてほしい、と言う。俺は、案内した。


グライは、区画ごとの畑を、ゆっくりと見て回った。やがて、水路の前で、足を止めた。


「……水路まで、直したのか。魔法もなしに」


彼は、流れる水を見ながら、ぽつりと言った。


「正直、思ったより本物だな。半信半疑で来たんだが」


それは、お世辞ではなかった。農業を、数字で見る目を持った男だ。だからこそ、本物かどうかを、一目で見抜いた。



ひととおり見終えると、グライは、本題を切り出した。


「単刀直入に言いましょう。商人ギルドは、ダールム村と、その周辺の農地を、買い取りたい」


「買い取る」


「住民には、移転の費用と、三年分の生活費を、お支払いします。農地は、ギルドが商業農場として、効率的に運営する。――どうです。廃村になって、何も得られないより、ずっといい条件でしょう」


理屈は、通っていた。


廃村になれば、住民は何も得られない。だが、今売れば、三年分の暮らしが保障される。諦めかけていた人間には、確かに、魅力的な話だった。


俺は、すぐには答えなかった。


「分かりました。村の人たちに、伝えます」


「即答は、いただけませんか」


「これは、俺一人で決めることじゃない。村の人たちのものですから」


グライは、少し意外そうな顔をした。


「では、いつまでに返答を?」


「一月、待ってもらえますか。秋の収穫を、見てから判断したい」


グライが、片眉を上げた。


「……今年の収穫次第で、決める気ですか」


それから、彼は、ふっと笑った。今度は、目も少し笑っていた。


「面白い。いいでしょう、待ちますよ。一月後に、また来ます」


去り際、彼は、独り言のように呟いた。


「本当は、私はね、どちらでも、いいんですよ」


その言葉の意味を、俺は、すぐには測りかねた。



グライが帰った後、ラナがやってきた。


「何を、言っていた」


「買収の、提案です。村ごと、買い取りたいと」


ラナは、黙った。長い沈黙のあと、低い声で聞いた。


「……どうする」


「まだ、何もしません。秋の収穫を見せてから、村の人たちに、判断してもらいます」


ラナが、こちらを見た。


「お前は……村の人間に、決めさせるのか。お前が決めるんじゃなくて」


「そうです」


俺は、うなずいた。


「ここは、彼らの村だから。俺が決めることじゃない」


ラナは、しばらく俺を見つめてから、何も言わずに、畑のほうへ歩いていった。

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