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ハズレスキル『土壌感知』で転生した俺に、死にかけの辺境村を任されました  作者: ヲワ・おわり


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29/70

第29話 農業学習会、本格版

本作は全70話で完結予定です。

毎日5話ずつ、07:10/12:10/18:10/20:10/22:10 に予約投稿しています。

続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

水路が通ってから、村の空気は、目に見えて変わった。


二度目の農業学習会には、二十人以上が集まった。前回は十人ほどだったのが、倍に増えた。それも、無理に呼んだのではない。みな、自分から、聞きに来たのだ。「聞かされる」会が、「聞きに来る」会に変わっていた。


今日の主役は、俺ではなかった。


「春の野菜の植え付けについて、説明します」


前に立ったのは、ミリアだった。


「水路の水が、区画Cに届くようになりました。だから、今年は、ここに豆を植えます。豆は、土に栄養を足してくれるから、痩せた畑を回復させながら、収穫もできる。一石二鳥なんです」


俺が教えたことを、ミリアは、自分の言葉で、村の人たちに伝えていく。よそ者の俺が話すより、ずっと、すんなり耳に入っていく。俺は、横で、ただ見ていた。



やがて、住民から、質問が出始めた。


「豆は、どこの畑に植えるんだ」


「芋と麦は、隣同士に並べてもいいのか」


「水路の水は、どの畑から先に使う?」


具体的な質問だった。それは、住民が、農地を「自分のもの」として、考え始めた証拠だった。やらされる作業ではなく、自分たちの暮らしとして。


答えに詰まった質問は、ミリアが俺を見た。だが、俺はあえて、「ミリアさんに聞いてください」と返すこともあった。彼女自身が、考えて、答えを出す。それが、何よりの勉強になる。



会の途中、アナとトムが、一冊の冊子を、誇らしげに掲げた。


「見て! 農業の記録帳、作ったの!」


二人が、覚えたての字で書いた、手作りの記録帳だった。


「麦の芽が出た日」「水路が完成した日」――拙い字で、村の出来事が、日付とともに記されていた。


「字が……読めるのか」


老人の一人が、目を丸くした。


「字が読める子供が、いるのか。この村に」


その驚きには、感慨があった。識字など、この村では、長いこと無縁のものだった。それが、子供たちの手で、農業の記録として、形になっている。


「すごいだろ!」


トムが、胸を張った。



最後に、春の計画を、全員で確認した。


区画Bは、麦を継続。水路が通った区画Cには、豆類。区画Dには、春野菜。病害から回復しつつある区画Aには、土を肥やす緑肥を植える。


四つの畑に、それぞれ、役割がある。全員が、それを、理解していた。


会が終わると、ミリアが、どっと疲れた顔で、俺の横に座り込んだ。


「疲れた……」


「お疲れさまでした」


「向こうから質問されると、本当に分かってないと、答えられないんですね。ごまかしが、きかない」


「それが、一番の勉強です」


ミリアは、じとっとした目で、俺を見た。


「……意地悪だ」


だが、俺には、それが、最高の褒め言葉に聞こえた。彼女は、もう、教わるだけの人ではなくなっていた。

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