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ハズレスキル『土壌感知』で転生した俺に、死にかけの辺境村を任されました  作者: ヲワ・おわり


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28/70

第28話 水が流れた

本作は全70話で完結予定です。

毎日5話ずつ、07:10/12:10/18:10/20:10/22:10 に予約投稿しています。

続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

最後の土が、崩れた。


その向こうから、水が、染み出してきた。


最初は、ほんの細い、頼りない流れだった。泥に混じって、にじむように。だが、それは少しずつ、勢いを増していった。泥を押しのけ、土を洗い、やがて――澄んだ水が、新しい水路を、流れ始めた。


二十年間、止まっていた水が。


誰も、声を出さなかった。


老人たちは、目を細めて、流れる水を見ていた。子供たちは、固まったように、その場に立ち尽くしていた。ミリアは、ぼんやりと、水を見つめていた。


「……本当に、流れた」


ウォルトが、呟いた。


水が、新しい道を下っていく。区画Cへ。かつて村で一番だったという、あの畑へ向かって。



ラナが、ゆっくりと立ち上がった。


水路のそばまで歩いてきて、流れる水を、じっと見下ろした。


「二十年前」


彼女が、静かに口を開いた。


「ここを壊したのは、俺たちだった。憎み合って、自分たちの命綱を、自分たちの手で、叩き壊した」


水音だけが、響いていた。


「今日――直したのも、俺たちだ」


その言葉が、すべてだった。


誰も、何も、付け加えなかった。俺も、言わなかった。言葉は、いらなかった。二十年前に村が壊したものを、今日、村自身が、取り戻した。それを、全員が、分かっていた。


しばらく、水音だけが、続いた。



やがて、老人の一人が、泣き始めた。


声を殺して、肩を震わせて。それが、伝染した。隣の老婆が、その隣の老人が、次々と、目元をぬぐった。二十年分の涙だった。


「やったー!」


トムが、突然、叫んだ。


「水だ! 水が来た! やったー!」


子供の歓声が、張り詰めた空気を、ふわりと解いた。


アナが、水路に駆け寄って、流れに手を入れた。


「冷たい! きれい! ねえ、水、きれいだよ!」


俺は、止めなかった。彼女の手を、流れる水に、好きなだけ浸させた。



俺は、流れる水を見ながら、思った。


前世で、農業の仕事を、何年やっただろう。水路を直したことも、灌漑を引いたことも、何度もあった。


だが、こんなふうに、水が流れることが、これほど多くの人にとって意味を持った瞬間は、一度も、なかった。


ここでは、違う。


ここでは、水が流れるということが、二十年分の重さを、持っている。



水が流れたまま、全員が、しばらく、その場にいた。


誰も、「帰ろう」とは、言わなかった。


気がつくと、俺も、水路のそばに腰を下ろしていた。冷たい水音を、聞いていた。


前世で、どれだけ農業をやっても、こんな気持ちになったことは、なかった。


――これは、俺の村だ。


初めて、そう思った瞬間だった。

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