第23話 病害という試練
本作は全70話で完結予定です。
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工事の四日目の朝だった。
農地の見回りに行こうとしていた俺のところへ、アナが駆けてきた。
「レイム様。なんか、葉っぱが、変な色になってる」
胸が、ざわついた。
アナに案内されて、区画Aの麦畑へ行く。一目で、分かった。麦の葉の一部が、茶色く変色し、ぐったりと倒れている。立ち枯れだ。
しゃがんで、根元の土に手を当てる。土壌感知が、状態を教えてくれる。
「……根腐れじゃない。葉の病気だ。腐敗菌だな。気温が下がった後、湿度が上がったタイミングで、出た」
被害の範囲を、丁寧に確かめて回る。
区画Aの、およそ三割。だが――区画Bには、広がっていない。堆肥で土を戻した畑には、同じ条件でも、病気が出ていなかった。
◇
噂は、すぐに村中に広がった。
住民が、ぞろぞろと畑に集まってくる。立ち枯れた麦を見て、老人たちが、口々に言った。
「やっぱりか」
「今年も、ダメか」
「結局、変わらんかったんだ」
そこへ、村長が、険しい顔でやってきた。
「どういうことだ。大丈夫だと言ったじゃないか。芽が出たと、喜ばせておいて、これか」
その声には、怒りと、それ以上に、深い失望があった。期待してしまったぶん、裏切られたと感じている。期待させて失望させるのが一番こたえる――村長が、最初に言った通りだった。
俺は、住民の前に立った。逃げも隠れもしなかった。
「区画Aの、三割が、病害を受けました」
俺は、はっきりと言った。
「小さく見せるつもりはありません。三割は、事実です。これは――対策が遅れた、俺のミスです。申し訳ありませんでした」
俺は、頭を下げた。
だが、すぐに顔を上げた。
「ただし、区画Bは、無事です。一本も、病気が出ていない。そして、この病害は、対策すれば、必ず止められます。諦める理由には、なりません」
「……本当か」
「本当です。明日、原因と対策を、全部、説明します」
◇
ラナは、何も言わなかった。
ただ、立ち枯れた麦の前に立って、じっと、それを見ていた。怒りでも、絶望でもない、静かな沈黙だった。
ミリアは、違った。彼女は、俺のところへ来て、まっすぐに聞いた。
「どうすれば、止められますか」
その目に、諦めはなかった。すでに、次のことを考えている目だった。
「教えてください。私も、やります」
「ありがとうございます」
この人がいる限り、まだ大丈夫だ。俺は、そう思った。
◇
その夜、俺は、病害の特徴を、頭の中で整理した。
腐敗菌。気温低下のあとの、湿度上昇。区画Aは、もともと水はけが弱かった。それは、分かっていたことだった。なのに、対策が、後手に回った。
俺のミスだ。言い訳はできない。
だが――区画Bは、無事だった。
その差こそが、明日、住民に示すべき答えだった。失敗は、ただの失敗で終わらせない。そこから、何が正しかったのかを、証明する。




