第22話 ウォルトという人間
本作は全70話で完結予定です。
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工事の二日目。
冬が近い。朝の空気は冷たく、息が白くなる。それでも、ウォルトは黙々と土を掘り続けていた。
騎士として鍛えた体は、村の老人たちより、ずっと多く土を運べる。一人で、三人分は掘っている。
「あの騎士さん、よく働くな」
老人の一人が、感心したように言った。
休憩のとき、ウォルトが、その老人に尋ねた。
「農業というのは、どのくらいやれば、身につくものなんですか」
老人は、しわがれた声で笑った。
「三十年じゃな」
「……三十年」
ウォルトが、絶句した。
「まあ、でも」老人は続けた。「覚え始めるのは、早いほうがいい。あんた、見込みがあるかもしれんぞ。土の運び方が、丁寧だ」
ウォルトは、なんとも言えない顔をしたが、満更でもなさそうだった。
◇
別の休憩のとき、俺はウォルトが、子供たちに何か教えているのを見た。
近づくと、木の棒を剣に見立てて、トムに構え方を教えていた。
「いいか、こうやって構えると、転びそうになっても踏ん張れる」
「へえ! ウォルトかっこいい!」
トムが、目を輝かせている。
「ウォルトさん」ミリアが、後ろから声をかけた。「農業を手伝いながら、子供の護身まで考えてるんですか。……意外と、細かいですね」
「いや、これは、その」ウォルトが、慌てて棒を下ろした。「子供が、危ない目に遭わないように、と。それだけです」
ミリアは、くすりと笑った。
◇
その夜、ウォルトが、ぽつりと打ち明けた。
「この村に来る前は、正直、思っていました。なぜ俺が、廃村の護衛なんかをやらなきゃいけないのかと。左遷も同然だと」
俺は、黙って聞いた。
「でも、今は……不思議と、ここにいる理由がある気がするんです。村が、少しずつ変わっていくのを、間近で見ていると。俺も、その一部になっている気がして」
「ウォルトさんが、必要だから、ここにいるんですよ」
俺は、そう言った。
「それだけです」
ウォルトが、こちらを見た。少し、驚いたような顔だった。
「……レイム様は、そういうことを、さらりと言うんですね」
「事実ですから」
ウォルトは、何か照れくさそうに、そっぽを向いた。だが、その横顔は、城を出たときより、ずっと穏やかになっていた。
◇
工事は、三日目に入った。
冬の朝は、いっそう冷えた。それでも、朝から工事に来る人間は、少しずつ増えていた。
そして、その日。
ラナが、初めて工事の現場に来て、遠くから、じっと作業を見ていた。




