第21話 水路工事の初日
本作は全70話で完結予定です。
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水路工事の朝が来た。
集まったのは、俺とミリア、ウォルト、それに住民の有志が五人。決して多くはないが、最初の一歩としては上等だった。村の老人たちが、遠巻きに見物に来ている。ラナも、農地の端から、こちらを眺めていた。
まずは、土砂で埋まった一つ目の崩壊箇所から手をつけた。
「ここを掘り出せば、もとの水路が使えます。みんなで、土をどけましょう」
スコップと鍬で、埋まった土を掘り出していく。地道な作業だ。だが、進み具合は予定通りだった。
「思ったより、できるもんだな」
有志の一人が、汗をぬぐいながら言った。「無理だ」と思っていたことが、手を動かせば、少しずつ形になる。その手応えが、人の顔を変えていく。
◇
問題は、二つ目の崩壊箇所だった。
岩盤を避ける迂回路を掘り始めると、すぐに、固いものに当たった。
「……岩だ。ここにも岩盤が出てる」
設計では、三十メートル掘ればつながるはずだった。だが、掘ってみると、岩盤の範囲が、想定より広い。このまま掘っても、また岩に当たる。
「やっぱり、無理なんじゃないか」
「最初から、岩盤なんて避けられんと思っとった」
見物していた老人たちの間に、不安の声が広がった。さっきまでの手応えが、一気にしぼんでいく。
俺は焦らなかった。問題が出るのは、農業ではいつものことだ。
地面に膝をついて、手を当てる。土壌感知で、地下の岩盤の範囲と、水脈の道筋を、もう一度、丁寧に探った。
「……分かりました」
俺は立ち上がった。
「迂回できます。ただし、もう少し東に、十五メートルずらす必要がある。掘る距離は、三十メートルから四十五メートルに増えます」
「四十五メートル……増えるのか」
「はい。正直に言います。六日で終わると言いましたが、八日かかります」
ウォルトが、心配そうに聞いた。
「大丈夫ですか」
「大丈夫です」
俺は、はっきりと答えた。
「最初の計画と違うことが出てきた。なら、計画を変える。それだけのことです。岩盤がどこにあるかは、もう分かった。確実に避けられるルートも分かった。あとは、掘るだけです」
問題が出ることそのものは、失敗じゃない。問題が出たときに、慌てて投げ出すことが、失敗なんだ。
◇
その夜、俺はなかなか寝つけなかった。
頭の中で、感知した岩盤の範囲を、何度も確かめる。失敗の可能性は、ゼロじゃない。だが、成功の可能性のほうが、ずっと高い。
農業は、いつもそうだった。百パーセントなんて、ない。天候も、病害も、思い通りにはならない。だが、六割の勝算があるなら、動く。動かなければ、何も変わらない。
明日も、掘る。
俺は、そう決めて、目を閉じた。




