第17話 土の色が変わった
本作は全70話で完結予定です。
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秋まきから二週間が過ぎた。
朝、区画Bの様子を見に行こうと農地へ向かうと、先客がいた。
ラナだった。
腰をかがめて、堆肥を入れた畑の土を、両手で握っていた。俺がまだ近づく前から、彼女はずっと、そうしていたらしい。
「……色が、違う」
ラナが、呟いた。
俺が来たことには、まだ気づいていない。あるいは、気づいていても、振り返る余裕がなかったのかもしれない。彼女は、ただ土を見つめていた。
俺は、静かに近づいた。「何をしているんですか」とは聞かなかった。彼女が自分で確かめに来たことは、見れば分かる。
「変化してきてます」
俺がそう言うと、ラナはようやく振り返った。
「本当に、違う」彼女の声は、わずかに震えていた。「この土で、こんなに変われるとは。わしは何十年も、ここで畑をやってきたが……こんな色の土は、見たことがない」
堆肥を入れた畑の土は、確かに、色が深くなっていた。前は白っぽく乾いていた土が、今は黒っぽく、しっとりと湿りを帯びている。有機物が分解され、土に溶け込み始めた証拠だった。
ラナは、土を握っては離し、握っては離しを繰り返した。確かめずにはいられない、というように。
「……まだ、信用したわけじゃないぞ」
やがて、彼女はそう言った。
「分かってます」
「でも」
ラナは、土を、そっと畑に戻した。
「……続けてみろ」
俺は、その言葉を、しっかりと受け取った。
二十年間、何も信じなかった老婆が、「続けてみろ」と言った。それは、ただの許可ではなかった。様子見から、応援へ。彼女の中で、何かが確かに動いた瞬間だった。
前世でも、何度も経験した。最初の理解者が、本気で動き出す瞬間。そこから、すべてが変わり始める。
「ありがとうございます」
俺がそう言うと、ラナは照れ隠しのように、ふんと鼻を鳴らした。
◇
そのとき、畑の向こうから、子供の声が響いた。
「芽が出てる! ねえ、芽が出てるよ!」
アナだった。区画Bの一角で、しゃがみ込んで、地面を指差している。
駆け寄ると、確かに、そこにあった。
地面から、ほんの少しだけ顔を出した、緑の芽。
指の先の、さらに半分にも満たないほどの、小さな小さな芽。種まきから十日。予定より少し早い、発芽の兆しだった。
「本当だ」
俺は、しゃがんで、芽をのぞき込んだ。
弱々しい。風が吹けば折れそうなほど、頼りない。だが、それは確かに、地面から上を向いて、空を目指していた。
「ちゃんと育てよ!」
トムが、芽に向かって叫んだ。
俺も、心の中で、同じことを思った。
ラナが、少し離れたところから、その芽を、じっと見ていた。何も言わなかった。だが、その目に浮かんだものを、俺は、見た気がした。




