表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハズレスキル『土壌感知』で転生した俺に、死にかけの辺境村を任されました  作者: ヲワ・おわり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/17

第16話 麦の秋まき

本作は全70話で完結予定です。

毎日5話ずつ、07:10/12:10/18:10/20:10/22:10 に予約投稿しています。

続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

秋まきの日が来た。


早朝から、農地に人が集まった。ミリア、ウォルト、子供たち。そして、遠巻きにではあるが、村の老人たちも数人、見物にやってきた。


「今日は、種を蒔きます」


俺は、区画Bと、その隣の従来通りの畑を指した。


「ただ、全部の畑を、同じやり方にはしません。堆肥を入れて土を戻したここと、今まで通りの隣の畑に、同じ量の種を蒔く」


「なんで、わざわざ分けるんですか」


ミリアが聞いた。


「比べるためです。同じ種を、同じ日に蒔いて、片方だけ土を変える。そうすれば、収穫のときに『土を変えると、これだけ違う』と、数字ではっきり証明できる。村のみんなを、言葉じゃなく結果で納得させるためです」


ミリアは、なるほど、という顔をした。


種を蒔き始める。腰をかがめて、一粒ずつ、地面に押し込んでいく。地味で、根気のいる作業だ。子供たちも、見よう見まねで手伝った。


「これ、全部、芽が出るの?」


トムが、土を掘りながら聞いた。


「全部じゃない。でも、選んだ種だから、ほとんどは出る」


「ほとんど! すごい!」


トムが、嬉しそうに種を押し込んだ。



作業の途中、ミリアが、ふと手を止めた。


「……あれ。この土、触り心地が違う」


彼女は、区画Bの土を、両手ですくった。


「前より、柔らかい。ふかふかしてる」


「堆肥が効いてきてる証拠です。土の中で、小さな命が働いて、土をほぐしてくれてる」


見物に来ていた老人の一人が、おそるおそる近づいてきて、土を触った。


「……本当だ。柔らかい」


その老人は、しばらく土を握ったり離したりしていた。何十年もこの村で農業をしてきた手が、初めて触る感触だったのだろう。



一日かけて、区画Bの種まきが終わった。


腰が痛い。十六歳の体でも、農作業は楽じゃない。だが、心地よい疲れだった。


「次は、区画Dを、明後日に」


俺が言うと、帰りかけていた老人が、ぽつりと言った。


「……お疲れさん」


それは、この村に来てから、住民が初めて俺にかけてくれた、ねぎらいの言葉だった。


「ありがとうございます」


俺は、頭を下げた。小さな一言だったが、確かに、何かが変わり始めていた。



その夜、俺は一人で、区画Bの端に立った。


地面を見ても、何も見えない。蒔いた種は、土の下だ。当たり前だ。


だが、確かに、そこにある。三週間もすれば、芽が出る。


農業は、いつもそうだ。見えないものを信じて、待つ。


土の下で、今この瞬間も、種が目覚めようとしている。それを信じられるかどうかが、農業をやる人間と、やめてしまう人間の、分かれ目だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ