第12話 なぜを教える
本作は全70話で完結予定です。
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堆肥が熟成するまでには、時間がかかる。
その待ち時間を、俺は無駄にしたくなかった。ミリアも同じだったらしい。ある日、彼女のほうから切り出してきた。
「なんで連作がダメなのか、もっと詳しく教えてください。ちゃんと理由を知りたい」
いい兆候だった。理由を知りたがる人間は、必ず伸びる。
「いいですよ。じゃあ、質問から。同じ作物を、同じ畑に植え続けると、何が起きると思いますか」
「土が……疲れる?」
「そうです。なぜ疲れると思いますか」
ミリアが考え込む。俺は急かさなかった。考える時間こそが、知識を根づかせる。
「作物が、土の栄養を吸うから……同じ栄養ばっかり、なくなる?」
「正解です。麦が欲しがる栄養は決まってる。麦ばかり植えれば、その栄養だけが、どんどん減る。残った栄養はあっても、麦には使えない。だから育たなくなる」
「……じゃあ、どうすれば戻るんですか」
「違う作物を、順番に植えるんです。これを輪作といいます。特にいいのが、豆です」
「豆?」
「豆は、土に栄養を足してくれる。空気の中にある栄養を、根っこに取り込んで、土に置いていってくれるんです。だから、麦を植えた畑に、次は豆を植える。その次はまた違うものを。そうやって回せば、土は痩せない」
ミリアの目が、見開かれた。
「豆を植えると、土が良くなる……? そんなの、聞いたことない」
「この村では、誰も知らなかっただけです。珍しい話じゃない。知っていれば、当たり前のことです」
ミリアは、しばらく黙っていた。それから、絞り出すように言った。
「……じゃあ、今まで不作だったのは。やり方が、間違ってたからで……土が、ダメだったわけじゃないんですか」
「そうです」
俺がそう答えた瞬間、ミリアの表情が、ぐしゃりと歪んだ。
悔しさと、希望と。両方が混ざった顔だった。両親が苦しんだのも、村が痩せていったのも、土のせいではなかった。やり方を、誰も知らなかっただけだった。
「……この土、まだ助けられるんだ」
ミリアは、そう呟いた。涙ぐんでいた。だが、それは絶望の涙ではなかった。
「教えてください」
彼女は、まっすぐに俺を見た。
「ちゃんと理解してから、動きたい。なんとなくじゃなくて、自分で分かって、やりたい」
「分かりました。一緒に考えましょう」
弟子、という言葉は使わなかった。それは、上から教える関係になってしまう。一緒に考える。それで、いい。
そばで聞いていたウォルトが、ぽつりと言った。
「俺にも、なんだか分かってきた気がします。豆が、土に栄養を……」
「そうです。ウォルトさんも、立派な農業の生徒です」
「いえ、私は騎士なので」
ウォルトは慌てて否定したが、満更でもない顔をしていた。
◇
その夜、ミリアは一人で、何かを計算していた。
「どの区画に豆を植えて、どの区画を休ませて……三年で回すなら、最初の年は――」
地面に小枝で図を描き、ぶつぶつと呟いている。
俺は、余計なことは言わなかった。
自分で考え始めた人間に、横から口を出すのは、一番やってはいけないことだ。それも、二十二年で学んだことだった。




