第11話 堆肥と抵抗
本作は全70話で完結予定です。
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翌朝から、堆肥の材料集めが始まった。
俺とミリア、それにウォルトの三人で、村の周りを回る。枯れ草、落ち葉、木を燃やした灰。籠に詰めて運ぶ。地味で、汚れて、終わりの見えない作業だ。
材料を抱えて村の中を歩いていると、老人たちが家の前に出てきて、不審そうな顔をした。
「何をやってるんだ」
「糞や草を、畑に混ぜるのか?」
「そんなことをしたら、余計にダメになる」
「昔の人は、そんなことはやらなかったぞ」
口々に言われた。新しいことへの拒否反応。前世でも、何百回と聞いた言葉だった。だが、俺はここで自分が直接言い返すことはしなかった。よそ者の貴族が理屈を並べても、この人たちの耳には届かない。
「ミリアさん」
俺は小声で頼んだ。
「あなたから、説明してもらえますか。『土に栄養が戻る。理由はこの人が確かめた。だから、一回試してみよう』って。あなたの言葉で」
ミリアは一瞬ためらったが、籠を置いて、老人たちの方へ向き直った。
「みんな。これ、汚く見えるけど、土に栄養を戻すためなの。レイム様が――この人が、ちゃんと理由を調べてくれた。枯れた草も糞も、もとは土から生まれたものでしょ。それを土に返すだけ。一回だけ、試してみない?」
村の人間が言うと、空気が少し変わった。半信半疑ながらも、聞く耳を持つ者が出てくる。
そのとき、ゆっくりとした足音がした。
ラナだった。籠を片手に提げて、堆肥の山の方へ歩いてくる。
「……まあ、見ておくか」
それだけ言って、ラナは枯れ草を山に積み始めた。
その瞬間、空気がまた変わった。村で一番長く土を見てきたラナが手を動かす。それは、どんな理屈よりも雄弁だった。一人、また一人と、老人たちが籠を手に取り始めた。
「ありがとうございます」
俺がラナに言うと、彼女はふんと鼻を鳴らした。
「礼を言うのは早い。芽が出てから言え」
午後には、小さな堆肥の山が一つ、できあがった。湯気のように、かすかな熱を持っている。発酵が始まっている証拠だ。
「これが、三週間で肥料になります」
俺が言うと、トムが目を丸くした。
「三週間? 長い!」
「長いよ。でも、待つだけの価値がある」
子供たちは、堆肥の山を珍しそうに突いて、ウォルトに叱られていた。
◇
その夜、ウォルトがぽつりと言った。
「農業って……人を動かす仕事でもあるんですね」
「そうです」
俺はうなずいた。
「土を変えるより前に、人の考えを動かさないといけない。それが、一番難しいところなんです」
ウォルトは、自分の手についた土と草の匂いを嗅いで、なんとも言えない顔をした。だが、嫌そうではなかった。




