第10話 改革計画を立てる
本作は全70話で完結予定です。
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その夜、俺は割り当てられた古い屋敷の一室で、計画を練った。
ウォルトに手伝ってもらい、この世界で手に入る素材や道具を一つひとつ確認していく。鍬、鋤、籠。家畜は山羊が数頭、鶏が少し。枯れ草と落ち葉はいくらでもある。台所の残飯も、家畜の糞も。
材料は、揃っている。
頭の中で、改革の順番を組み立てた。
まず、堆肥。痩せた土に、有機物を戻す。これがすべての土台だ。次に、輪作の計画。同じ作物を続けて植えない畑の使い方を決める。それから、麦の秋まき。今が秋の初めだから、ここで蒔けば、春に芽吹き、初夏に収穫できる。そして冬の間に、水路の復旧。
「今から始めれば、ぎりぎり間に合う」
季節は待ってくれない。作物の時間は、人の都合では動かない。だからこそ、順番が命だった。
◇
翌朝、計画をミリアに説明した。
「まず、堆肥を作ります」
「たい、ひ?」
「枯れ草、落ち葉、台所の残飯、家畜の糞。それを集めて、積んで、寝かせる。腐らせて、土に戻すんです。痩せた土に、栄養と力を取り戻させる。これが、最初の一歩です」
ミリアが、微妙な顔をした。
「……糞とか残飯とか、汚いって言われませんか。みんなに」
「言う人も、いるでしょうね」俺は正直に答えた。「でも、それは全部、もともと土から生まれたものです。土に戻すだけ。汚いものじゃない。一年もすれば、黒くて、いい匂いのする土になります。それが、畑を生き返らせる」
ミリアは、しばらく考えてから、ため息をついた。
「……分かりました。でも、みんなに説明するのは、大変ですよ。年寄りは、新しいことを嫌がる」
「一緒に説明しましょう」
「え?」
「あなたが一緒なら、住民に伝わりやすい。俺はよそ者だけど、あなたは村の人だ。あなたが『やってみよう』と言えば、聞いてくれる人が出てくる」
ミリアは、じとっとした目で俺を見た。
「……あんた、人をうまく使いますね」
「そうです。あなたが必要だから」
ミリアは何か言い返そうとして、結局やめた。代わりに、小さく笑った。初めて見る、彼女の笑いだった。
そばで聞いていたウォルトが、おずおずと口を挟んだ。
「あの……私は、何を手伝えばいいんでしょうか」
「肉体労働全般と、情報収集です。堆肥を積むのも、材料を運ぶのも、力仕事ですから」
「……農業って、そういうものなんですね」
ウォルトは、騎士の自分が堆肥を運ぶ姿を想像したのか、複雑な顔をした。だが、嫌だとは言わなかった。
◇
計画が固まった夜、俺は一通だけ、報告書を書いた。父――辺境伯への、月次の報告だ。
『ダールム村の農業改革を開始します。成果の目標――来年の初夏の麦収穫で、前年比百五十パーセント以上』
数字を書くと、それは現実になる。逃げ場がなくなる。やるしかなくなる。前世の農業普及員の頃から、変わらない習慣だった。
ここまで来れば、あとは始まりだ。
最初の一週間が、一番難しい。動かない人を、最初の一歩、動かすところが。
だが、それも知っている。何度もやってきた。
翌朝、ミリアが来るより早く、俺は堆肥の材料を集め始めた。




