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第3話

僕は自室でガバッと跳ねる様に飛び起きた。


「夢か・・・」


あまりに鮮明に白いワンピースの女に追いかけられた瞬間を思い出せたことでまだ現実感がない。

まだ近くにいるのでは無いかと顔を動かすことすらはばかられる。

ただずっとそうしてもいられないので、

おそるおそるギギギと骨が軋む音をさせながら少しずつ首を回転させながら自分のみなれた室内を確認する。

左はいつも通り雑然とした机と本棚がある。

右は白い壁だけだ。

まっすぐ向いたところには生活感を感じさせる小さい台所が見えており異常はない。

後ろが怖い。ベランダに続く大きな窓がある。

日が入っているところを見ると、カーテンは開いていることはわかるが、昨日自宅を出る時に閉めていたかどうかは思い出せない。

仮にそこに昨晩の女が立っていて、こちらが振り返っている時に襲われたらと想像しただけで全身に鳥肌が立つが、この狭い部屋で見ないわけにもいかず、

意を決してバッと振り返った。

するとただそこにはカーテンの開いた大きなベランダに出るための窓がいつもの通りにあるだけだった。


「夢か」


とやっと昨晩のことが夢であることに確信が持てた。

お寺に行って不思議な体験をしたせいでクタクタだったこともあり、帰り道の記憶が曖昧になってしまったんだろう。

まだ思い出せない気持ち悪さはありつつも、そう思うことにした。

現実に帰って来れた安堵からか、全身汗だくなことにやっと気がつき、気持ち悪さが背中から迫り上がってきた。


「シャワーでも浴びるか」


誰に言うともなく、自分に言い聞かせるように口に出した。



重い身体を引き摺りながら、何とか洗面所へ辿り着く。

繋ぎっぱなしのドライヤーは延長コードのせいで雑然と見え、美容師に言われるがまま買った整髪料や肌のケア商品のせいで雑然とした洗面台の鏡に映った僕の顔はそれはもう疲労感が漂って酷いものだった。

あまりに酷くて乾いた笑いが出たほどだ。

その疲労感に覆われた顔が昨日のお寺での体験をまた事実だと物語っている。

思い出しても酷い体験ではあったものの、あの人懐っこい顔のお坊さんとユミのことを思い出し、自分は恵まれているとも思った。

こんなわけのわからないことに全力で心配してくれる人がいる事が嬉しく、照れ臭くもなった。

少し気持ちが上向いたところで、さっさとこの汗の不快感を落としてしまおうと

着ていたTシャツを脱いだ瞬間固まってしまった。


今、脱いだTシャツの背中に、手のひらほどの穴があいている。


その事実に気がついてしまった瞬間、部屋に入っていた日の光が急にかげり始めた。

完全な闇にはなっていないが、少し先が若干ぼやけてしまう。

服を脱いで上裸になっているにも関わらず、嫌な汗が吹き出している。

背中に伝う汗の流れがわかるほどに感覚が鋭敏になっている。


カタッ


部屋の方から音がした。

反射的に洗面所から出て部屋の方へ視線を送る。

すると風か何かで部屋にあった紙コップが転がっているだけだった。

ホッと一瞬気が緩んだ

その瞬間、洗面所につながる風呂場の扉が大きな音を立てて開き

昨日の夜僕の玄関前に立っていた、最後は飛びかかってきた女が黒く落ち窪んだ目をまっすぐに僕を見ていた。

扉を挟んでまっすぐに向かい合う形。恐怖で足がすくむ。

逃げ出したい、逃げなければならないのに、動けない。

と、次の瞬間女の表情が笑顔になりけたたましく笑い始めた。

そして僕の右腕をすごい力で掴み、風呂場に引きずるこもうとしてきたのだ。

パニックになった僕はその女に空いている手足を使い殴りかかる。

殴った感触が硬くなった粘土のようで手応えがない。

そして殴ったら殴ったままの形に歪んでいく。

どう攻撃しても耳障りな金切り声にも似た笑い声が止まらない。

半狂乱になった僕は手当たり次第周りにあったものを投げつけた。

整髪料、肌ケア用のチューブ、歯ブラシにコップ

どれも意味がなかった。最後にドライヤーを手に取り女の左頬に向けて殴りつけた。顎から下が大きく歪む。

すると勢い余ってスイッチを押してしまい温風が出てきた。

するとその温風に当たった女の右手がガサっと崩れ落ち、拘束から離れられた。

お互いに反対側に大きく転けてしまったが、僕はすぐに立ち上がり玄関の方へ駆け出した。


ご覧いただきありがとうございます。

服の背中に空いた、小さな穴。あなたの背中は大丈夫でしょうか。


少しでも「ゾクッとした」「続きが気になる」と思っていただけましたら、下にある【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】で応援していただけると、執筆の励みになります。


次回、第4話に続きます。


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