第2話
次の日、講義終わりのユミを引き留め昨日考えたことを説明した。
荒唐無稽な話しだと自分でも自覚していたにも関わらず、彼女は途中相槌を打ちながら静かに僕が話し終わるまで聞いてくれていた。
話し終わった僕をまっすぐに見つめ優しい声で
「じゃぁ、可哀想だけどちゃんと供養してあげないとね」
と言ってくれた。
「信じてくれるの?」
「うん、だってコウキがこういう話しで嘘つくとは思えないし」
こともなげにいう彼女に逆に面食らってしまった。
そうこうしているうちにユミはスマホで学校近くのペット供養をしているお寺を探してくれて、すぐに行くことになった。
そのお寺は街の喧騒から隔離されたように澄んだ空気で、山道に両脇に連なっている木々の葉音が耳に心地がいい。
門をくぐると目の前に出てくる本堂にまずお参りをし、横の社務所で事情を説明するとすぐに供養をしてくれることとなった。
袈裟を着た人懐っこい顔のお坊さんがうやうやしくこちらに一礼し、お経を唱え始めた。
2、3分ほど経った頃、急に自分の座りが悪くなってきた。
普段しない正座のせいかと一瞬思ったが違う。背中がチクチクと痛み出したのだ。
最初は針の先で軽くつつかれているような感覚だったが次第に強く、そして範囲も針から刃物の様なものへと変わっていった。
変わるにつれて座っていられなくなり、次第に背中の痛みを我慢できなくなった。
とうとう背中から血が流れ出した。
ユミがすぐに異変に気がつき小さく悲鳴をあげたがすぐに
「大丈夫だから、今供養してあげるから」と僕の背をさすりながら、そこにいる見えないそれに諭すように語りかた。
その様子をお経を止めずにみていたお坊さんの表情も次第に険しく、声のボリュームをあげていった。
2人の想いが通じたのか、だんだんと痛みが刃物から針へ戻っていき、全くなくなっていった。
落ち着いた僕らを確認し、お坊さんはお経を終えにかかった。
最後の一節を唱え終える頃には痛みも全くなくなっていた。
唱え終わったお坊さんがくるりとこちらに向き直り
「大変でしたね。もう大丈夫ですよ」
とあの人懐っこい笑顔で言ってくれるのをみて、僕はこの不思議な体験の終わりを確信することができた。
帰り道。突然のできことへの疲労感から僕とユミはゆっくりと、地に足がきちんとついていることを確かめるように歩いていた。
「ごめんね・・・」
ユミが僕に話しかける。
僕は首を振りながら
「むしろありがとうだよ。あのまま放置していたらと思うとゾッとする」
ユミは何かを言いかけたがにこりと小さく笑顔を作ったっきりだった。
いつものコンビニにさしかかり、ユミとは別れて1人家路につく。
思い出しても本当にありえない体験だった。
血が流れた背中がかさぶたで痒くなり始めているから夢では無いことがわかる。
ぽりぽりと掻きながら進んでいくとやっと自宅アパートがみえた。
道から玄関側が見える作りで、僕は2階の一番手前の角部屋に住んでいるので少し見上げただけで自宅の玄関が見える。
そして今、その玄関前に誰かが立っている。
扉の方を向いているので顔はわからないのだが、
細身の女性で髪は腰くらいまである。白いワンピースを着ている。
何の用だろう?と思い下の道から歩きながら声をかけた。
「何かようですか?」
するとその女がゆっくりとこちらを向き始めた。
その瞬間、直感的にこれは声をかけてはいけない類のものだと感じた。
すぐに逃げ出したいのに足がすくんで動かない。
女の身体は扉を向いたまま、
頭だけがギリギリと音を立てながらこちらに回ってくる。
目が離せない。
自分が一本の棒切れになってしまったようだ。
完全に女の顔が僕の正面で止まった。
顔も真っ白で目は落ち窪んで黒くみえた。
そしてその女の無表情な顔が一気に満面の笑みになった。
なったと同時にとても人から発せられた声とは思えない雄叫びをあげながら、ありえないスピードで僕をめがけて走ってきた。
僕に届くその瞬間、チリンと鈴の音が聞こえた。
ご覧いただきありがとうございます。
服の背中に空いた、小さな穴。あなたの背中は大丈夫でしょうか。
少しでも「ゾクッとした」「続きが気になる」と思っていただけましたら、下にある【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】で応援していただけると、執筆の励みになります。
次回、第3話に続きます。




