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第一話

「ねぇ、コウキ。最近ネコ飼い始めた?」

大きな瞳に好奇心を隠しもしない表情でユミは僕に不思議な問いを投げかけた。

「いや?なんで?」

「だってほら、背中に穴空いてる。これってネコ飼ってたらあるやつでしょ?」

8月の直射日光が降り注ぐ道の真ん中で、首をなんとか捻って汗で張り付いているTシャツを引っ張って確認すると脇腹と背中のちょうど真ん中あたりに小さな穴が空いていた。


「ほらね?」

「なんだろ。引っ掛けたつもりもないんだけどなぁ」

「じゃぁ、洗濯の時に空いちゃったんじゃない?」


そんな会話をしていたら、いつもの分かれ道に来た。

角のコンビニを左に曲がる僕と、直進して大通り沿いに帰っていくユミ。

いつもはそのコンビニで夕食を買って帰るのだが、今日はそんな気にもなれず別れを告げる。



家に帰ってすぐに汗で湿ってしまったTシャツを脱ぐ。

いつもなら見もせず洗濯機へそのまま入れてしまうが、今日はさっき言われたことが気になって被害状況を確認した。


「先週結構気に入って買ったんだけどなぁ」


そう言いながら汚れとも見間違うようなちいさな穴をまじまじと見つめる。

自分で思っていたよりも精神的にダメージがあったようで、なんで穴が空いてしまったのか気になってきた。

すでに洗濯機に放り込んでいた何日分かのTシャツを引っ張り出して他にも穴が空いていないか確認し始めた。

すると3枚あったTシャツ全てに同じようにちいさな穴が空いてしまっていた。


「うわ、最悪じゃん。わー、これって縫えば直るかな。」


誰に聞かせるでも無い独り言がつい口をつく。

その後、家にある服を引っ張り出したものの直近着た服はTシャツに限らず全滅だった。特に2ヶ月前に悩みに悩んで初めてのバイト代をつぎ込んだブランドものの半袖シャツにも小さく穴が空いてしまっているのを見つけた時は一番こたえた。


幸い一人暮らしの際に持ってきた冬服は無事だったが

なんで6月以降に袖を通した服ばかり穴が空いてしまっているのか気になって仕方がなかった。

大事にしていた半袖シャツは洗濯機に入れずクリーニングに出していたので洗濯機のせいではなさそうだ。

リュックも使っていないのでその線もない。

大学の講義の時の椅子かとも思ったが、穴の位置がそれぞれ違うし

そもそも背中に何かが刺さっていると感じたこともない。


不思議に思いつつも気持ちとしては非常に萎えてしまったので

明日百均で裁縫セットを買って帰ろうと心に決めて、とりあえず寝ることにした。



次の日、買ってきた裁縫道具で穴を縫っている最中、こうなった原因を改めて考えてみた。チクリと何かが刺さった記憶もなければ昨日考えていたように、

何かが背中で擦れて穴が空いたとも考えがたい。

直接の原因が思い浮かばず、時期的な方へと思考を飛ばし始めた。


穴は6月以降の服だけ。

6月に何かあったか?

4月に入学したばかりの大学へはちゃんと通って講義にでていた。

サークルの新歓コンパも5月には下火になり結局どこも決めれず、結局最初の講義で席が近かったメンツでつるんではいる。

ユミに誘われて有名な絵本の展覧会は行ったがそれきりだ。

バイトは大学近くの牛丼屋に決まったがそれは4月の中旬からだ。

色々と考えていると、あることを思い出した。


6月になったばかり、夕方にも関わらずまだ涼しくなっていない日のことだった。

バイトへ行く道すがら、ふと道路に目をやると猫が車に轢かれていた。

国道で車はスピードを出している。近くで確認もできないが、そのままというのも気になってしまい、役所の国道事務所へ連絡した。

電話はスムーズに進み、「すぐに対応します。」とのことだった。

バイトの帰りに同じ場所を通った時にその言葉通り、いつもの道路に戻っていた。


そのことを思い出し、それまで全く意識したことがないにも関わらず確信してしまった。

あの時の猫がついてきてしまったのだ。


ご覧いただきありがとうございます。

服の背中に空いた、小さな穴。あなたの背中は大丈夫でしょうか。


少しでも「ゾクッとした」「続きが気になる」と思っていただけましたら、下にある【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】で応援していただけると、執筆の励みになります。


次回第2話に続きます


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