9 盛り塩団地の夜【1】
怪談収集家──オカルト系ネットオタクともなれば、SNSの毎日更新は義務みたいなところがある。過去の怪談ストックを更新して日課を終える。
例のノックは深夜に聞こえるらしいから、今のうちに仮眠を取るべきだろうか。でも、せっかくのオカルトスポットお泊まりだから時間がもったいない気もする。
「散歩、しよっかな」
時刻は19時。玄関を出ると、陽はすっかり落ちて風が涼しい。カーディガンくらいは持ってきても良かったかも。
のんびりと階段で一階まで降り、スマホのマップを見ながら最寄りの川へ歩いて行く。
10年ほど前、402号室に住んでいた家族の子供が近くの川で水難事故に遭った。どんな川なのか見てみたかった。
しばらく歩くと、河川敷の光景が広がった。用水路のようなちょっとした川かと思っていたが、想像していたよりもずっとザ・川だ。
釣り人が毎年流されて死んでいそう。よほど自信がなければ泳いで渡れそうにない。
団地からそう遠くはないし、交通量の多い道も無いから、子供でも簡単にたどり着けそうなのはわかった。
だが、人通りはそんなに少なくない。今も犬の散歩をしている人とすれ違った。
見通しも良いし、民家も近い。溺れている子供がいたらわかりそうなものだが……そう簡単な話ではないか。天候や状況、子供の溺れ方にもよるだろうし。
遠くからでも川をまたぐ大きな高架橋が見えていた。
歩くうちに高架下に着くと、車の走る音がよく聞こえる。
「もしここで遊んでたら、なおさらかもな」
人通りのあるところからは見えにくい角度があるし、小さな音はかき消される。
橋のせいで影があり、余計に暗い。街灯の光が届かない水面の色はやたらと黒く見えた。
ちなみに、私は泳げない。
泳げないという情報を開示し、フラグを立てた後で川辺に立って水面を覗き込んだりするのはバカで愚かな道化キャラがやることだ。だから私はしない。えっへん。
黒い水面がちゃぷんと揺れた。魚かな。
ずいぶんと腐食した看板が立てられているのが見えた。スマホのライトで照らしてみると、『ここで遊ばないでください』と書かれている。
……過去にこの場所で何かあったから、これが立てられたのかな。
つい点と点を結びつけたくなってしまう。
「想像は膨らむけど、なんもわからんなぁ……っくしゅん!」
くしゃみが出た。薄着すぎるせいだろう。
そろそろ団地に戻るか。
本番はこれからだ。




